弁護士による芸能人の権利擁護団体「事務所と芸能人の架け橋に」
不倫、薬物、事務所からの独立など芸能人をめぐる諸問題が連日世間を騒がせている。そんな中、芸能人の地位向上、権利を守るための団体・日本エンターテイナーライツ協会を弁護士5人(望月宣武・向原栄大朗・安井飛鳥・河西邦剛・佐藤大和)が発足させ、9日に都内で記者会見が行われた。
同協会の活動内容は3点。「芸能人らの権利を守る」(勉強会や相談会の開催、ニュースレターの発信、メディアや芸能事務所に対する意見表明)、「芸能人らのセカンドキャリア形成を支援する」(企業と連携し、芸能人のセカンドキャリア支援、芸能人の起業支援)、「芸能人らの地位を向上させる」(仕事環境等の改善に向けた政策提言、芸能人の労働組合設立の支援、弁護士によるエージェント制度の導入)となる。
協会について「誤解がないように言いたいのは、この協会は芸能事務所との対立構造をとりたいわけではない」と説明する佐藤弁護士は、「先週と今週だけでも多くの芸能事件がありましたが、わたしが弁護士として何十件、何百件と芸能案件に携わっていて感じるのは、芸能人側の知識不足、経験不足、社会常識の欠如といったこと。事務所側だけでなく芸能人側としても、もう少し法律や社会常識といった知識のブラッシュアップや学ぶ場を設けられないかと思いました。わたしたちは芸能事務所と芸能人の架け橋となりたい」と語った。
この日は、ももいろクローバーZや水樹奈々らに楽曲を提供している音楽家のしほりも会見に参加。「以前に所属していた事務所は今思うと問題があるところでした。お給料も出ないのに馬車馬のように働いていたんです。契約書もなかったし本当はいつでも辞められたはずなのに、若い頃は社会経験がなかったから『夢をつかみたい。機会を逃したくない』と思ってやめられなかった。こういうセーフティーネットが業界にあればいい」とコメントした。
また、元SKE48のメンバーで現在は女優・ダンサーとして活動する桑原みずきは「元SKEの名前を利用しようとして、いい話をちらつかせて近寄ってくる人がいて。仕事が成立しないまま逃げられたこともありました。その時は悔しくて腹立たしくて。仕事を受けたことを後悔しました」と自身に起こった出来事を振り返る。「その時に相談できるところがあったらよかったのにと思います。わたしはズバズバものを言えるんでいいですけど、意見の言えない子は丸め込まれてしまう。こういう場所に救われる子はいると思う」と指摘した。同席した俳優の今野悠夫は同業者から相談された「性的」「金銭的」「暴力的」問題を上げ、「芸事をやっている人間も強くなってもいいんだと思う」と意見を述べた。
河西弁護士は「過去に100枚以上、芸能プロとタレントとの契約書を見てきたが、タレント側に一方的に不利な契約書となっていることが多い。契約期間が長かったり、途中で契約を解除した場合に違約金が発生したり」とこれまで目の当たりにしてきたことについて説明。「芸能事務所はひとりの新人を育てるために多額の金銭と労力を投資し、そこから数年かけて回収するビジネスであることは理解している。だからタレントと事務所と両者に公平な契約書となるために統一の契約書フォーマットを作りたい。芸能人の地位向上に向けた法整備にも力を入れたい」と今後について話した。
佐藤弁護士は「最近の芸能事件を見ると、弁護士の戦い方がよくない。タレント生命を失わせるような戦い方をしてはダメ。ファイティングポーズというよりは、いい形で終わらせる努力をしたいと思います」とあくまで両者の調整役であることをアピール。望月弁護士は「対立構造は目的としませんが、たとえば地下アイドルに人権侵害があった場合など、戦わざるを得ない場合もあります」と付け加えていた。
まだ設立されたばかりの同協会だが、「守秘義務があるのでお名前は言えないが(設立以来)10単位で問い合わせをいただいている」(佐藤)状態だという。今後の同協会の成り行きに注目したい。(取材・文:壬生智裕)