鬼才ホドロフスキー監督、新作は2人の息子が自身と父親を演じた自伝的作品
新作『エンドレス・ポエトリー』(11月18日 日本公開)について、チリの鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー監督が主演アダン・ホドロフスキーと共に、7月14日(現地時間)ニューヨークのランドマーク・サンシャインでの上映後のQ&Aで語った。
本作は、『リアリティのダンス』に引き続き、ホドロフスキー監督の自伝的作品。1940年~50年代のチリで、カルロス・イバニェス・デル・カンポを大統領に据えるための動乱の最中、サンティアゴでさまざまな興味深い人々と出くわす若き日の詩人アレハンドロを描いている。ホドロフスキー監督の息子アダンが若き日のアレハンドロ、アダンの兄ブロンティス・ホドロフスキーがアレハンドロの父親ハイメ役を演じた。
父ホドロフスキー監督や兄ブロンティスと(前作に続き)再タッグを組んだことについて、アダンは「家族と仕事をすることは特別だが、少し不思議な感覚もあって……演じる上では難しかったね。撮影現場では監督が父親であることや、父親に対する個人的な感情を忘れて演じようとはするんだけど、実際には僕自身が若き日の父を演じている。だから撮影当初は父と確認を取りながら、お互いが同意して製作を進めていたんだ」と当初は困惑したことを明かした。
その父・ホドロフスキー監督は厳しい父親ハイメのもと育ったことで、父親になるのに苦労したという。「(子供の頃に父親から母親への虐待を見てきたため)ブロンティス誕生のときは、自分が父親になるということが難しかったんだ。良い父親は、子供の前でどんな行動を示せば良いのか、いろいろと考えたよ。ある意味、当時は良い父親の真似をしていただけだったかもしれない。でもそんな良い父親を真似していたことで、アダンの誕生の頃には真の愛を知って、現実でも良い父親になれたと思うんだ。だからブロンティスには、良い父親の真似で少々かわいそうなことをしたかもしれないね(笑)」と振り返った。
現在88歳のホドロフスキー監督はぜんそくなどを患い、長期の撮影や編集に苦労したそうだが、それでも映画を作る意図はと問われると「僕は常に芸術を考え、自分自身が芸術の証明になれるように映画を作っている。映画はビジネスで、そのゴールは大きな興行を得ることだが、そのような映画製作過程では、監督として自由に描けないんだ。観客に気に入られるような映画を作ろうとすると、芸術家としては自由ではない。もしそんな興行、名声、影響力を忘れられたなら、芸術家の仕事だけが主要となり、その中でできる限り完璧主義を貫くことになるんだ」と思いの丈を語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hoski)