“5万回斬られた男”福本清三、斬られ役の美学
「5万回斬られた男」の異名を持つ俳優の福本清三が25日、大分県由布市で開催中の第42回湯布院映画祭の特別上映作品『時代劇は死なず ちゃんばら美学考』シンポジウムに中島貞夫監督、女優の山本千尋らと共に出席、斬られ役の美学を語った。
本作は、東映京都撮影所出身の中島監督が、京都で制作された時代劇の魅力や神髄について解説するドキュメンタリー。時代劇の斬られ役として長きにわたるキャリアを持つ福本は、「やはり、ちゃんばらは死にざまが一番だと思って、東映で斬られてきました。斬られる方にも色気がないとダメ。美学があってもいいんじゃないかなということがやっと最近、わかるようになってきました」としみじみ。さらに「斬られるということは大変なこと。殺陣師も(動きの)手は教えてくれるが、死に方は教えてくれないから。いろいろと一生懸命やりましたけど、今でも難しいなと思っています」と付け加えた。
さらに福本は、「倒れるときはバーンと倒れること。いたくなさそうな倒れ方は、アカンと思う。お客さんが見ていて、絶対にあいつ頭打ってるで、と思わせるような痛みを感じてもらいたい。もちろん若い子にそうせいと言ったことはありませんが、僕はそれを心がけようと思っています」と語る。
一方の中島監督も「実は僕と彼(福本)は、映画界に入ったのが同じ年なんです。彼は15歳の時、僕は大学を出てからという差はありましたが、キャリアは一緒。とにかく彼は礼儀正しくて、われわれの目から見ても、真面目ひと筋でやってきた人。東映京都での作品は五十何本かありますが、そのうちの半分以上は彼に出演してもらっていると。そういう関係です」と説明する。
そして中島監督は、殺陣のうまい俳優として若山富三郎さん、中村錦之助さん、そして故・松方弘樹さんの父である近衛十四郎さんの名前を挙げる。「中でも殺陣の迫力という意味では、弘樹ちゃんのお父さんが一番ですね。弘樹ちゃんは本当におやじさんを尊敬していた」と切り出した中島監督は、『太秦ライムライト』のクライマックスで行われた福本と、松方さんの殺陣の例を挙げながら、「あの映画では年寄り同士の殺陣が一番迫力あった。若ければいいものではなく、刃と刃が交錯し、その瞬間に火花が飛び散るかどうかなんですね。殺陣というのは単なるパフォーマンスではなく、殺し合いなんだと。殺し合いというのはある種の悲劇性を帯びますよね。それが今の日本映画には欠けている。キャリアというのはバカにできないものなんですよ」と熱弁。その話を聞いた山本は「わたしはデビュー作が太秦で、多くのことを学びました。だからわたしもいつか太秦に帰って時代劇を盛り上げたいです」と意気込み、会場の拍手を浴びた。
さらに福本も「ちゃんばらというのは目の芝居なんですよ。僕も入りたての頃は、(往年の巨匠)内田叶夢先生に目に力が入っとらん、目を見開いて見ておけと。そういうことを習いましたね。もちろん最初はケガさせたらいけないから、なかなか主役を相手にすることができなかった。段階を経て、殺陣師さんから、福本なら大丈夫だなと思ってもらうまでに20年はかかる。僕は下手だからそれくらいかかったけど、先生(近衛十四郎)に斬られて、松方のお兄ちゃんにも斬られて。僕は親子2代に斬られたわけです」と誇らしげに振り返った。(取材・文:壬生智裕)
第42回湯布院映画祭は8月27日まで由布市の湯布院公民館にて開催中