キム・ギドク暴行事件は、韓国映画界のパワハラ・モラハラを浄化できるか
韓国映画界が揺れた8月3日。この日は、性や暴力描写など過激な演出で知られる韓国映画界の異端児キム・ギドク監督の映画『メビウス』(2013)を途中降板した女優が、台本にない演技を強要され暴行を受けたと7月26日にソウル地方検察庁へ告訴したことが明らかになった日だ。同事件の概要と現状をまとめる。
8月4日、キム・ギドクサイドは声明分を出した。この内容は「頬をひっぱたいたのは暴力ではなく、演出の意図を理解させるためであって他意はない。暴力シーン以外に関してはシナリオにあるシーンを撮るために監督として最善を尽くす過程で生じた誤解。Aさんには申し訳ないことをしたと思うが、何しろ4年前のことであり、当時のことをよく覚えていない」とAさんに謝罪しつつも自身の釈明をつづったものだった。
今回の事態に対し、全国映画産業労働組合はじめとする139団体からなる「映画監督キム・ギドク事件共同対策委員会」は8月8日に記者会見を開催。「イチ監督とイチ女優の枠を越えた映画界全体が抱える問題にとどまらず、映画監督という優越した地位を利用した事件だ」とし、韓国映画界が抱える構造的な問題であると指摘した。
この会見はAさん不在で行われたが、女性児童人権センター代表のイ・ミョンスク弁護士は「事件当時、Aさんは事件として警察や国家人権委員会などに訴えましたが、『事件として立件するのは難しく、下手をしたら逆に名誉毀損で逆に訴えられるかもしれない』と説得され、それに周りの人に迷惑をかけることになるかと考えると、勇気を出すことができませんでした」と主張。告訴が遅れた理由を「撮影現場での統制権を握る監督に逆らえない現実」だと説明した。
現状について韓国映画界の関係者たちの話を聞くと、“最上の映画を作る”という名分でパワハラ、モラハラが横行しているとした訴えは、韓国映画界全体の浄化につながると歓迎する意見が大勢だった。だがその一方で、撮影現場が腫れ物に触るように萎縮し創作に影響するのではと心配する意見も出た。
今回の会見で対策委員会サイドは、今後の事件再発防止のための監視体制や法体系の整備を韓国政府に働きかけるとしたが、韓国政府からの具体的な動きは、30日時点いまだにない。(文:土田真樹)