『パンズ・ラビリンス』ぶりの傑作?ギレルモ・デル・トロ最新ダークファンタジーが現代に必要なワケ!
第74回ベネチア国際映画祭
ギレルモ・デル・トロ監督の最新作『ザ・シェイプ・オブ・ウォーター(原題) / The Shape of Water』が現地時間31日、第74回ベネチア国際映画祭にてワールドプレミア上映され、賞賛を浴びている。また同日行われた記者会見には、デル・トロ監督&キャストらがそろって出席し、ヒロインと水生クリーチャーのラブストーリーが現代に必要なワケを語った。
『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』などを手がけてきたメキシコの鬼才デル・トロ監督がつづる大人向けダークファンタジー。冷戦中のアメリカを舞台に、声を発することができないエリサ(サリー・ホーキンス)は、政府の極秘研究機関で清掃員として働いていたが、水生クリーチャーと恋に落ち、それまでの世界が一変していくさまを緻密につくりこまれた映像美で描き出す。
今年のベネチア国際映画祭の目玉作品の一つともされていた本作は上映されるや、好感触。デル・トロ監督が記者会見に登場すると、拍手喝采が響き渡り、司会者が止めるまで続いていたほどだった。「ファンタジーはとても政治的なジャンルだと思う」と持論を述べるデル・トロ監督は、エリサと水生クリーチャーの“種族”を超えたラブストーリーが1962年の設定ながらも、とても現代的な作品になっていることについて、「アメリカ人が“Making America Great Again(アメリカの選挙スローガンで近年ではトランプ大統領が使用)”と言う時には、彼らはその時代を夢見ていると思う。(1962年は)アメリカが未来を信じている時代だった。そんな時代でも人種差別や階級差別があって、それは現代で直面している問題と同じ」と指摘。「僕はメキシコ人だから、他人として見られることをどう感じるかを知っている」とエリサや水生クリーチャーに向けられるまなざしには、デル・トロ監督の体験も反映されていることをうかがわせつつ、「現代人が抱えている問題というのは、愛よりも恐怖を選んでしまっていることで、それは災難だと思う。愛は宇宙において最強の力を持っている。ビートルズもイエス・キリストも間違っているはずがないからね」とジョークを交えつつ、本作の意義を語った。
水生クリーチャーには名前がつけられていないが、「どうしても名前はつけたくなかったんだ。クリーチャーには多面性があって、それぞれのキャラクターに別の顔を見せるからね。エリサに対して、(マイケル・シャノンが演じた研究施設で働く)ストリックランドに対して、そして科学者(マイケル・スタールバーグ)に対してというようにね」とその理由を説明しつつも、「でも、昔流れてたツナ缶のコマーシャルの“チャーリー”という魚のキャラクターにちなんで、チャーリーと呼んでいたよ」とお茶目な裏話も。一方、そんな水生クリーチャーと恋に落ちるヒロイン・エリサを、声を使えない演技にもかかわらず、表情豊かに演じきったサリー。実はこの役をオファーされた当時、自らも本作に似た設定の短編ストーリーを執筆しようと、アイデアをノートに書き留めていたそうで、それをデル・トロ監督にも見せ、エリサというキャラクターをつくっていったことを明かす。このあまりにも奇妙な偶然により、本作がとても特別な作品になったことをサリーは感慨深そうに振り返っていた。
そして最後に、長い間進展がない「ピノキオ」をパペットで映画化する企画について質問されたデル・トロ監督は「約10年も資金源を探しているしているんだ。パペットもあるし、デザインもある」と準備万端であることを強調しながらも、「いつも自分で自分の人生を複雑にしている気がするよ。だってつくりたいと思う映画は、どれも簡単ではないし、その時には誰も望んでいないようなものばかりなんだ。『ヘルボーイ』のときは誰もスーパーヒーロー映画をやりたがっていなかったし、『パシフィック・リム』のときは誰もモンスター映画をやりたがっていなかった」と笑ってみせる。「ピノキオ」をやると言ったときには、多くのスタジオから電話がきたものの、「でも、その舞台はムッソリーニが台頭する時代で、アンチファシストのピノキオなんだ」と告げると、見向きもされなくなったそうで、会場に向かって「もし3,500万ドル(約38億5,000万円・1ドル110円計算)持っている方で、あるメキシコ人をハッピーにさせたいと思っているなら、ここにいますよ」とまさかの売り込みも行なっていた。(編集部・石神恵美子)
第74回ベネチア国際映画祭は現地時間9月9日まで開催