菅田将暉、『共喰い』以来の激しい濡れ場を振り返る
俳優の菅田将暉が、映画『あゝ、荒野』(前篇:10月7日・後篇:10月21日2部作連続公開)で挑んだ激しい濡れ場について、その意義を明かした。
寺山修司の長編小説に基づく同作は、少年院上がりの新次(菅田)と、父親のDVに加えて吃音と赤面対人恐怖症に苦しんできた建二(ヤン・イクチュン)が、ボクシングを通して出会い、義兄弟のような絆を育んでいく青春映画。言葉よりも暴力でモメ事にケリをつけてきた新次と、吃音である建二にとって、ボクシングや濡れ場は、言葉に代わる重要な身体表現でもある。菅田は、ヒロインに抜擢された芳子役の木下あかりと複数回に渡り関係を結ぶシーンを演じた。
濡れ場シーンについて菅田は、「建二に、トレーナーの“片目”(ユースケ・サンタマリア)も含めて3組それぞれに濡れ場が、結構なシーンでありますね(苦笑)。しかも新次については何パターンもあるので、岸さん(岸善幸監督)と話し合って決めました」という。
結果、新次の濡れ場は、獣のように背後から交わるスタイルに決めた。だが新次がボクサーとして頭角を現して注目を浴び、かつ芳子とも肌を重ね合わせていくうちに、まるで母親に甘えるかのように肉体にすがるようになっていく。
菅田はこの変化について「新次は愛情というものに飢えていて、最初は芳子は、欲求をぶつけるだけの存在だったと思うんです。それがあまり胸の内を言葉にしない新次が、徐々に、つたない言葉を振り絞って思いをぶつけていく存在に変わっていったと思います」と説明する。
菅田の体当たりの芝居を見て、その存在を世に知らしめた映画『共喰い』(2013)を思い起こす人もいるだろう。作家・田中慎弥の芥川賞受賞作を映画化した同作は、菅田演じる17歳の高校生・遠馬が、思春期を迎えるにつれて、暴力的な性癖を持つ父親への嫌悪と、その血を自分も受け継いでいるのではないかと葛藤する人間ドラマだ。
当時19歳だった菅田は父親役の光石研や母親役の田中裕子といった演技派たちとも堂々とわたり合い、“役として現場で生きること”の大切さを、肌で知った作品だった。菅田は当時を振り返りつつ、「まさに『共喰い』の現場を思い出していました。肉体を使うことで、自然と役の感情が湧き出てくる。その感じが、非常に似ていました」と語る。
撮影も、ドキュメンタリー出身の岸監督は役者の動きに委ね、手持ちカメラでそれを追っていくという独特のスタイルで行っており、菅田も「リハーサルも一応やるんですけど、本番が始まったらほぼカメラマンの夏海(光造)さんとのセッションで、カットもいつかかるかわからない」という。
そうして完成した作品には、予想もしなかった自分の表情が映っていることもしばしばだったようで「1回見ただけではまだ客観的に語れない部分もあるんですけど、それでも、どの画面を切り取っても、自分で自分をうらやましく思うくらい情熱的だった。素直に、(スタッフ皆に)『ありがとう』と言いたい気持ちになりました」と胸の内を明かした。
ここのところ映像の仕事が続いた菅田だが、10月30日~11月26日には、東京・世田谷パブリックシアターで生田斗真と共演する「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」で、3年ぶりに舞台に挑む。どこまで高みを目指すのか。現状に甘んじないこの姿勢が、ファンのみならず、多くのクリエーターたちを刺激するのだろう。(取材・文:中山治美)