アニメ版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』監督、映画祭で複雑な心境を明かす
長編アニメーション化された『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が現地時間24日、スペインで開催中の第65回サンセバスチャン国際映画祭で招待上映され、武内宣之監督と川村元気プロデューサーが記者会見を行った。現在公開中の同作は賛否両論を巻き起こしており、その観客の反応について武内監督と川村プロデューサーが心境を明かす一幕もあった。
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同作は、岩井俊二監督が1993年にフジテレビ系ドラマ「if もしも」シリーズで発表した中学生の淡い恋模様を、現代の要素を取り込みながら再構築したもの。“ロトスコープ”を用いてドラマの主人公たちの動きを忠実にアニメで再現するなど原作へのオマージュを高く評価する一方で、通称“もしも玉”を使って、主人公・島田典道の願望が何度も繰り返される物語の分かりづらさやラストの解釈を巡って賛否両論が巻き起こっている。
地元の記者から日本での評価を問われた武内監督は「ネットで見ればすぐに分かるのですが、すごく良いと悪いが真っ二つに分かれている状態です。すごく分かりやすいハッピーエンドの話ではないので最初からどう受け止められるか不安だったのですが……。もちろん僕の至らなさもありますけど、ヘンに重要な評価を受けるよりは、うまく言えないんですけどホッとしているというか、嬉しい気分です」と複雑な胸の内を明かした。
恐縮しきりといった面持ちで、心情を語る武内監督の様子を観て、司会者から「でも日本では主題歌も含めて大ヒット(興行成績約15億円)したとうかがっています。それは評判が良いという証なのではないでしょうか?」とフォローが。これに対して武内監督は「去年、ものすごくヒットした『君の名は。』を手がけた川村さんの作品で、その先入観で観に来る人もいると思うので、(社会現象になる様子を見ながら)心の中では怖いな、怖いな、怖いなと思ってました。今となっては多少落ち着いて入られますけど、やっぱり……」と言葉を探りながら、「いっぱい見てもらってそういう反応をいただいて、今となっては、いっぱい見ていただいてありがとうという気持ちです」と前向きな言葉で締めくくった。(数字は配給調べ、9月24日現在)
川村プロデューサーも「『君の名は。』はストリーテリングが明快で物語性の強い作品だったのですが、本作は映像表現に重きを置いている作品で、まさにそこが(評価の)焦点となっているという感じです。でも昨年の『君の名は。』同様にサンセバスチャンに持って来られましたし、シッチェスへの出品も決まりました」と語り、同じスペインで開催される第50回シッチェス・カタロニア国際映画祭(10月5日~15日)のコンペティション部門に選出されたことを発表した。
また現地の記者からは「ハリウッドのアニメは世界のマーケットを意識していることを感じますが、日本は非常にドメスティック。海外のマーケットを重要視していないのでしょうか?」という指摘も。これに対して川村プロデューサーは「それが日本のアニメの良さかなと思っています。『君の名は。』は結果的に200か国以上で公開されてヒットとなりましたが、特に海外を意識している訳ではなく、ドメスティックな感覚に向かいあって製作しました。ただ僕は、東京で感じている感覚、向き合っている感覚は世界と繋がっているのではないか? ドメスティックにとことん向き合うことが、結果的にユニバーサルに繋がると思って作っています」と持論を語った。
なお、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は世界121の国と地域での配給が決まっており、スペインでも公開が予定されている。(取材・文:中山治美)
第65回サンセバスチャン国際映画祭は9月30日まで開催
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は全国公開中