菅田将暉は何が優れているのか?韓国の名優が明かす
韓国人俳優ヤン・イクチュンが、映画『あゝ、荒野』(前篇:上映中・後篇:10月21日公開)でダブル主演を務めた俳優・菅田将暉に対して「感情に忠実に、本能で動くことができる天才」と賛辞を贈った。
ヤンが日本映画に出演するのは、日本など7か国合作によるリム・カーワイ監督『マジック&ロス』(2011)、ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』(2011)、西川美和監督『夢売るふたり』(2012)、宮藤官九郎監督『中学生円山』(2012)に続いて5作目になる。
家庭内暴力という実体験を基にした監督・主演映画『息もできない』(2008)が国内外の映画祭で高い評価を受け、中でも日本では、キネマ旬報ベスト・テンの外国語映画賞1位と外国映画監督賞をダブル受賞するなど熱狂的に支持されて出演オファーが後を絶たない。本作には、企画・製作の河村光庸氏が『息もできない』の日本配給を手掛けた縁で、菅田演じる新次と共にボクシングに人生を賭けることになる建二を演じた。
決定後は他作品への出演を控え、約2か月半にわたって韓国でボクシングのトレーニングに集中したというヤンは「スタッフから、日本で訓練に励んでいる菅田さんの映像を送ってもらっていたので、それを見ては『自分も頑張らないと』と奮起していました」と、菅田の存在が大きな刺激になっていたようだ。
なにせ菅田とヤンの年齢差は18歳。劇中で同じジムに所属してトレーニングに励むだけでなく、クライマックスでは同じ階級でリング上で死闘を繰り広げなければならない。この年齢差は体力だけでなく、芝居にも大きく影響を与えるとヤンは指摘。「歳を重ねると演じる前にあれこれ考え過ぎてしまい、頭で理解してから行動に移すようになりますが、菅田さんの場合はそこが絶妙で、本能で動いている。感情に忠実に演じているなと思いました」という。
その言葉を受けて菅田は「何も考えてないだけですよ」と照れくさそうに切り返したが、実際に菅田とセッションしたヤンは、違う感想を抱いたようだ。「菅田さんは頭では考えていないかもしれませんが、体で考えていたと思うんです。どういう俳優が素晴らしいか? それを定義づけするのは難しいのですが、肉体そのものが天才である俳優の方が望ましいと思います。菅田さんは、そういう素質を持っていると思います」と菅田の魅力を語った。
かく言うヤンも、本作ではボクシングのみならず、リングネームの“バリカン建二”が示すように理髪店勤務の設定なので散髪の技術も習得しており、その動きが実にスムーズで美しい。しかも、日本語のセリフを口にしながら、難なく演じているのだ。競争の激しい韓国芸能界を実力で這い上がってきたヤンの確かな技術と緻密な演技に唸らされることだろう。
そして現在は韓国ドラマ「バッドガイズ-悪い奴ら-2」の収録を行いながら、『あゝ、荒野』のキャンペーンに参加しており、日韓を行き来中。10月25日より開催される第30回東京国際映画祭では、ワールド・フォーカス部門で主演作『詩人の恋』が上映される。(取材・文:中山治美)