ジャン=ピエール・レオを驚かせた諏訪敦彦監督の撮影手法
21日まで開催された第22回釜山国際映画祭で、『不完全なふたり』『ユキとニナ』の諏訪敦彦監督による仏日合作作品『ライオンは今夜死ぬ』がワールド・シネマ部門にてアジアプレミアとして上映。上映後に主演のジャン=ピエール・レオによるハンド・プリンティング(手形)、諏訪敦彦監督とともに観客からの質問に答えるQ&Aイベントが行われた。
【動画】ジャン=ピエール・レオ主演×諏訪敦彦監督『ライオンは今夜死ぬ』予告編
本作の主人公は、南フランスで映画を撮影中の老齢俳優ジャン。今は誰も住んでいない屋敷で、かつて愛した女性の面影を追いながら、近所の子どもたちの映画撮影ごっこに付き合うことに。彼らとの交流によって「死」とともに生きていくことを受け入れたジャンは、撮影現場に戻り死にゆく演技に挑戦する……。劇中には実際の映画制作のワークショップを通じて選ばれた子どもたちが登場している。
主演のジャン=ピエール・レオは、1950年代後半からフランスで起こった映画の新しい手法であるヌーヴェル・ヴァーグの作品に多数出演した名優。映画界に多大な貢献をしてきた映画人を称えるハンド・プリンティングを終えたレオは、会場の観客に満面の笑みを見せながら、「新しい作品とともに、名誉ある映画祭にお招きいただきとても光栄です」と挨拶。続いて諏訪監督も登壇し、Q&Aが行われた。
諏訪監督の作品についてレオは、「『不完全なふたり』はまさにパーフェクトな作品。新たなヌーヴェル・ヴァーグの要素を見つけることができた。そんな監督がわたしと作品を撮りたいと思ってくれたことはとてもうれしい」と開口一番に述べた。
諏訪監督は、「アジアで初めて上映することができたこと、そして釜山でジャン=ピエールと一緒に映画を観ることができたことに、とても興奮しています」と挨拶し、「大学生の時に、ヌーヴェル・ヴァーグの映画が『お前も映画を作っていいぞ、作ってみろ』と僕に語りかけてくれたように思ったのです」と述べた。「ジャン=ピエールは僕にとって特別な存在です。彼と一緒に映画を撮ることができたのは、本当に奇跡的なことだと思います」と感慨深く語った。
諏訪監督の撮影スタイルについてレオは「諏訪監督の撮影方法は本当に独特で、カメラの前に立たせて、いきなり『アクション!』と言うのです。正直、73歳という年齢のわたしには、瞬間的に創作できる能力が随分落ちているので、本当に大変」と苦笑した。フランソワ・トリュフォー監督のように7回ほどリハーサルする撮影スタイルに慣れていたと続けながらも「とても美しい作品を撮っているスタッフたちと連帯感を持って撮影に臨んだ」とのこと。
それに対し諏訪監督は「いきなりカメラを回しているつもりはなかったのですが(笑)」と答えつつ、「でも彼は作品の中で、即興的に演じた部分がたくさんあった」という。「例えば冒頭の控室のシーンで、自分が映っている鏡に向かって話していますが、これは彼がその場で瞬間的に生み出したセリフ」だったと明かした。
ワークショップを通して選んだという子役たちのキャスティングについては、諏訪監督が6歳から12歳くらいの小学生たちと映画のワークショップを行った際に、「自分も彼らと一緒にもう一度映画を発見する体験をしたこと」が大きかったという。
さらに映画のテーマについては「『生きることは素晴らしいことだ』というテーマにしたかった。『死』よりも、むしろ『活き活きと生きている』ことがいかに素晴しいかを、この映画で感じられるものにしたい」とテーマに込めた想いを語った。
子供たちがつくるアマチュア映画とプロの映画では、どちらの映画に出演したいか聞かれたレオは、「子供たちの映画がアマチュアということはなく、子供たちだけが持つ美しさというものがあると思います」と答え、続いて監督は「素晴らしい答えですね。同感です。プロであっても子供のように映画を撮らなければいけないと思います」と映画への想いを確かめ合う回答となった。
南仏の海の色や花々の色彩が幻想的だったという観客からの感想に対してレオは、「わたしが墓に行くときに持っていた大きな赤い花は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『マーニー』からイメージしました」と自ら提案したものだったことを明かした。
上映後のハンド・プリンティングに続き行われたQ&Aは、映画への熱い想いを持つ二人の対談が大いに盛り上がり1時間以上に及び、会場は映画への愛があふれる空気に包まれていた。(取材・文:芳井塔子)
映画『ライオンは今夜死ぬ』は2018年1月20日より YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開