二宮和也の演技力とは?『おくりびと』滝田洋二郎監督が明かす
アカデミー賞外国語映画賞受賞作『おくりびと』の名匠・滝田洋二郎監督が、『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』(11月3日公開)で嵐・二宮和也と初タッグを組み、現場で実感した二宮のスター性と演技力を讃えた。人気番組「料理の鉄人」を手掛けた田中経一の小説を映画化したミステリーで、二宮は戦下に消えた伝説のレシピを追う天才料理人・充を演じた。
【写真】すごい料理…二宮和也『ラストレシピ』幻のレシピ再現披露会
演じるキャラクターについては「自分が決めるのではなく、他人が決めてくれるものだと思っている」というスタンスの二宮だが、滝田監督は「とはいえ、相当いろいろと考えているのは確か。初日、何もしゃべらずカメラの前に佇んだ瞬間、既に“少し拗ねていながらもクールな充”そのものでしたから」と回想。続けて、「充のように最初は嫌な面が目に付くキャラクターが、僕は好きです。最後に別の面が出てくるのが面白い。人間は多面的な生き物ですから」と充というキャラクターの魅力を語る。
同じ施設で育った柳沢(綾野剛)と共に、充はレストランをオープンするが、天才ゆえの傲慢さと妥協のなさから経営に失敗。多額の借金を抱え、料理への情熱も失いかけている。そんな充に、高額の報奨金と引き換えに戦時下の満州で混乱の中に消えた、天皇の料理番が考案したフルコースのレシピを再現する、という仕事が舞い込む。いわば充は、劇的な満州パートをひも解く“案内人”と言える役回りだ。
本作ではセリフも控えめ、受けの演技に徹している二宮だが、滝田監督いわく「すごく難しい役」。「話を聞く受けの演技であり、その彼の表情で物語を次の場面へと飛ばさなければならない。大袈裟な表現は避ける共通認識の中、出会う人々の想いを受け止め、それを表情……目なのか口なのか……で表現しなければならないなんて、実際には非常に難しい。それをよく演じ切れたなと思いますね」と改めて感心を示した。
本作における最大の感動の波は、満州パートと現代パートが合流する場面、充が知りうる全てを受け止め、初めて感情を吐露するシーンに集約されている。「充の顔で終わるあの場面は、テストもせず、一発勝負で撮れた気持ち良さがありました。やっぱり彼は人を生かすのがうまい。ここぞという見せ場で、最高のパフォーマンスができる。あの表情で全てを持って行ってしまっていますよね。映画の核心であることを非常に良く理解している。それこそがスターですよ」と振り返った。
さて、米アカデミー賞受賞監督という肩書を背負いながらも、滝田監督のしなやかなチャレンジ精神は、本作でも至る面で発揮されている。特に今回、二宮に求めた演技と同様、音楽でも抑制を利かせたトーンを追及している。「今回はあえて音量的なマックスや強弱のピークを作らず、風のように染み入る音楽で心の深い部分に伝えることにトライしました。音楽に気づかないくらい、感情が後押しされてくれたらいいな」と自信を覗かせた。(取材・文:折田千鶴子)