坂本龍一に影響を与えた映画監督たち
去る9月4日、坂本龍一を追ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』がベネチア国際映画祭で初上映された。エンドロールが流れるや、ベネチアの観客から総立ちで拍手を受けた坂本。後日、同地でその様子を振り返るとともに、影響を受けた映画監督や音楽づくりについて語った。
本作は、東日本大震災をきっかけに変化した坂本の音楽表現と日常を、2012年から5年にわたり密着し、膨大なアーカイブ映像を交えながら映し出す。イタリアで熱狂的な歓迎を受けた坂本は「地味なドキュメンタリーで、あんなに凄い反応をいただけて」と驚きを隠せない様子で、「大きな理由はやはり(イタリアの名匠ベルナルド・)ベルトルッチの映画を三作やったという事で、強い親近感を持ってくれている人が多いんですよね」と語る。本編を通して観たのは、坂本もその日が初めてだったそうで、「あんまり客観的になれないので、何と言ったらいいのかわからないですけど。印象としては、たくさんの要素が詰まっている感じ、内容は濃いと思います」と映画の感想を口にする。
そんな坂本は筋金入りの映画好きとしても知られ、2013年には本映画祭のコンペティション部門の審査員を務めた経験もある。本編では新しいアルバムの制作過程において、音楽家ならではの視点でアンドレイ・タルコフスキーの映画について言及しているシーンが興味深いが、ほかにも影響を受けた映画監督はいるのだろうか。「たくさんいるんですけど、10代のときはとにかく(ジャン=リュック・)ゴダール。本当に影響を受けましたね。あとは、ゴダールを中心にして、(フランソワ・)トリュフォー、(ピエル・パオロ・)パゾリーニ、(フェデリコ・)フェリーニですかね。それで、20代に入って、タルコフスキー。あとは(ロベール・)ブレッソンも大好きですし、中国や韓国の映画も好きなものがたくさんあります。一人あげろと言われたら、ゴダールかな」。
「(ゴダール作品は)知的な興味というのかな、本の引用とか、難しい言葉がたくさん出てくるので、10代の子供としては刺激されますよね。その引用元を読みたくなって、ニーチェとかなんだとか読みたくなるし、随分刺激されたなと。あと編集のリズムっていうのも、ものすごくかっこよかったです。色彩的にも、青、赤、白などの使い方がすごくポップで。あの人が難しく政治的なことを言ってもどこまでもポップな感じで素晴らしいなと思うし、最近も3D映画をつくったりして、あのじいさん歳をとってますます過激だなと思ったりして、一目置いてますね。あとは大島(渚)さん。10代の時からもちろん大島さんに影響を受けましたから。あとベルトルッチも」。
そしてタルコフスキー映画のサウンドトラックに憧れ、つくられた新しいアルバム。その制作では、自然が奏でる“音集め”に夢中になる坂本の姿がまるで少年のようだ。いかに創作活動そのものに喜びを見出しているのかがうかがえるが、アルバムとして発売する手前、“売れること”を考えたりすることはあるのだろうか。「最近はニューヨークも、アートと金融の街になっちゃって。金融とアートがとても仲がいいから、そこだけお金がたくさんあって、音楽には全然お金が回ってこないんです。なぜか、金融と音楽は仲が悪いというか、音楽でお金は作り出せないジャンルになってしまって、それはそれでピュアでいいのかもしれないけど」と、そもそも音楽の置かれている現状がそうさせない流れがあると指摘しながらも、「映画もアートも大好きで、子供の時から享受している人間としては面白くないよね、お金まみれのアートなんかいやでしょう?」と話す坂本だった。震災やガンを経て変わっていく彼の音楽、その理由が本ドキュメンタリーの中でゆったりと紐解かれていく。(編集部・石神恵美子)
映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』は11月4日より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開