坂本龍一、若者にエールは送らない!そのワケとは?
世界的音楽家として知られる坂本龍一。東日本大震災を経て変化していく彼の音楽表現と日常を2012年から5年にわたって追ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』が公開を迎える。本編では首相官邸前デモへの参加など社会問題にコミットする姿も印象的なのだが、声をあげづらいと言われる日本社会で、彼を突き動かすものは何であるのかを本人に聞いた。
「子供の時から、人が決めたことには従わないという、そういう子供だったので、学校でも完全に浮いていました。浮いていても全然気にもとめなかったし、違ってあたりまえみたいな。上も下もなく、人それぞればらばらでいいんじゃないのかなと、日本ってあまりにも協調性を気にする社会だから」。穏やかにそう語る坂本は、心当たりがあるとすれば、育った時代なのかもしれないと続ける。「ただ、僕が生まれたのが、戦争が終わって7年後なんですけど、僕が二十歳になるくらいまで、戦後の日本っていうのは、かなり自由な雰囲気があってね。それまでが堅苦しい時代だったから、その反動で凄く自由になって、その中で育ってきたから、僕に限らず、その時代の人って言うのは、勝手気ままでいいんだっていうのが根付いている気がするんですよね。クレージーキャッツの植木等さんが出ている『ニッポン無責任時代』という1960年代のすごく有名な映画があるんですけど、ああいういい加減なやつが戦後のヒーローってかんじで、自由だったなと思うんです。1970年代過ぎて、また暗くなってきたというか、その後、学校でのいじめ問題が出てきたり、だんだん堅苦しくなっていて、今に至っているというか」。
そんな坂本は「脱原発」をテーマとした日本のロック・フェスティバル「NO NUKES」のオーガナイザーを務めるなど、今でも先頭を走り、若者たちを惹きつけている感があるが、かつてとは違う“今の時代”を生きる若者たちに対して思うことはあるのか。「僕はね、若者にエールを送らないようにしてるんです。甘やかしちゃいけないから(笑)。結局、こんな年上の人間なんかの力を頼っているようではだめだと。目上なんて全部敵で、“ふざけるな”という敵意をむき出して、自分たちの好きなことをやるというのが若さの特権だと思うから。僕もそうしてきたし、一歳でも年上だったら敵って感じでやってきたから。そういうパワーっていうのかな、根性を持ってほしいと思います。それがまわりまわってエールになってしまうと思うんですけど(笑)。まあ、年寄りの言う事なんて聞かないようにしたほうがいいと思います」。
坂本は今年で65歳を迎え、本ドキュメンタリーの完成に「日常の姿を見せるのは恥ずかしいし、自分の過去の業績を並べて悦にいるようなタイプの人間でもないので。むしろ、人生をまとめられちゃって、『CODA』(終結部という意味)というタイトルもつけられて、終わりのようなことになっちゃった」と笑みを浮かべながらも、「今年8年ぶりのアルバムを出して、それが自分にとっても大事なものだし、ある種の手ごたえがあるので、それをもっと推し進めていきたい。あとは今年12月に西新宿のICC(インターコミュニケーション・センター)という美術館でのインスタレーションをやることになっていて、それに関連しているんですけど、次の形で考えているのは、オペラなんですね。それはうまくいったら再来年に。オペラを考えてるよって言ったら、ヨーロッパのいくつかのオペラ劇場がうちでやりたいと言ってくれたところが10か所くらいあるので、そうなっちゃったらやらざるをえないですよね」と発奮する。本ドキュメンタリーを起点にして、坂本龍一のまた新たな章が始まりを迎えているようだ。(編集部・石神恵美子)
映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』は11月4日(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中