ゲイリー・オールドマン、チャーチル役に抜擢されたワケ
ゲイリー・オールドマンがウィンストン・チャーチル元英国首相を演じ話題の映画『ダーケスト・アワー(原題) / Darkest Hour』について、監督を務めたジョー・ライトが、11月13日(現地時間)、ニューヨークの AMCエンパイア 25 で行われた特別試写の上映後、Q&Aで語った。
本作は、第2次世界大戦初期の1940年に首相に就任したチャーチルが、ナチスドイツの侵略の恐怖の中、疑心暗鬼であった国王ジョージ6世や味方であるはずの政権内部からの反発を受け、数々の試練と向き合いながらも、大きな決断を下す姿を描いた伝記ドラマ。映画『つぐない』『アンナ・カレーニナ』を手掛けたライト監督がメガホンを取った。
ゲイリーをチャーチルにキャスティングした意外性についてライト監督は、「キャスティングする時は、演じるキャラクターに似た人物をキャスティングして描くか、それともキャラクターの本質を捉えて描くか、その2通りがあるんだ。ゲイリーのこれまでの仕事ぶりを見てきてわかる通り、彼にはチャーチルのような緊張感やみなぎるエネルギーがある。チャーチルの本質を持ち合わせていたんだ」とカリスマ性に共通点を見いだしたことを明かす。
だが、似ていると言うには程遠いルックスの二人。そこで、ゲイリーをチャーチルに変身させるために、特殊メイクアップ・アーティストとして、引退していた辻一弘に白羽の矢が立った。「ゲイリーとのタッグは、引退していた彼を引っ張り出してくるのに十分な動機だったかもしれないね。撮影に入る前には約半年もの間、さまざまな段階を経た下準備をしたんだ。最終的に、チャーチルに似せながらも、ゲイリーが演じやすいメイクを施すことに成功したよ」とライト監督。そのメイクがあまりに素晴らしいため、編集段階で顔にCGを加えることはなかったことも明かした。
アーカイブの映像が多く残っているチャーチルだけに、身体的な動きについてはどこまで意識したのだろうか。「僕とゲイリーが一緒に観たアーカイブ映像は、これまでテレビで描かれてきたような、いつも機嫌の悪いものとは異なっていて、とても面白いチャーチルの姿だったんだ。だから、映画内にもユーモアを十分に取り入れたよ。実際に彼がユーモラスな発言をする時は、自己防衛機能が働いている時が多いように思えたね」と答え、息の仕方からしゃべり方、歩き方までゲイリーと話し合い、時間をかけてチャーチル像を作り上げていったと説明した。
チャーチルの何事も疑うことから物事を進めていく視点を、今作を製作する理由の一つになったと語るライト監督。「彼を題材に描く時、これまでは彼の言葉の力が、社会を変えたり、元気付けたりした部分が扱われてきたと思う。けれど、個人的には彼の疑念こそが、知恵を得るために重要なことだったと思うんだ。実際、僕自身も今作を手掛ける前は製作できるか半信半疑だったけれど、(チャーチルを研究する過程で)疑念を抱くことは、実際に(研究対象への興味や理解でもあるため)ポジティブを引き出す可能性もあることが理解できたんだ」と本作が自身の考え方にも変化を与えてくれたと語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)