歳を重ねるごとに輝く井浦新の魅力
いい歳の取り方というのは、こういう人のことを指すのではないか。俳優のほか、「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」ブランドのディレクター、匠文化機構の代表理事、NHKの「日曜美術館」の司会など、マルチな才能を発揮する井浦新。現在43歳。今年、来年と主演映画が相次ぎ、年を重ねるごとに輝きを増す彼の魅力に迫ってみた。
是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』（1998）で俳優デビューにして、映画初主演。笑わないメガネ男子ルックでブレイクした『ピンポン』（2002）以来、2年の空白を経て『青い車』（2004）で主演。いずれも漫画原作で、後者では金髪に。浦沢直樹原作の『20世紀少年』シリーズ（2008～2009）ではメガネ＆スキンヘッドの暗殺者に。故・蜷川幸雄監督の『蛇にピアス』（2008）ではスキンヘッド＆顔面ピアス、全身タトゥーの彫師という強烈な変身ぶりを披露、『ウルトラミラクルラブストーリー』（2009）ではヒロインの事故死した恋人で首から上がない男など、容姿端麗なルックスを惜しみなく変化させていった。
井浦が順調にキャリアアップする中で、大きな転機を迎えるきっかけとなった人物が、スパルタ演出で知られる鬼才の故・若松孝二監督。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程（みち）』（2008）では丸刈りにして連合赤軍の幹部・坂口弘に、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』（2011）では壮絶な最期を遂げる晩年の三島にふんし、この際にアルファベットの名前が作品にふさわしくないとの理由でARATAから井浦新に改名した。ほか、『キャタピラー』（2010）、『海燕ホテル・ブルー』（2011）、『千年の愉楽』（2013）など晩年の若松作品に多く出演している。
『空気人形』（2009）でぺ・ドゥナ、『かぞくのくに』（2011）でヤン・イクチュンら海外の俳優と組む機会もあり一層役の幅を広げる中、2000年代後半からはテレビドラマでも精力的に活躍。2012年には月9「リッチマン、プアウーマン」（フジテレビ系）で東大卒のエリートにふんし小栗旬や石原さとみと共演。NHKの大河ドラマ「平清盛」（2012）では死後、怨霊と化す崇徳上皇を熱演して話題に。2014年には柴門ふみ原作の「同窓生～人は、三度、恋をする～」（TBS系）では主演を務め、稲森いずみ演じる中学時代の同級生と許されぬ恋に落ちるクリーニング店員を演じた。
現在も、黒川芽以とダブル主演を務めるR-18指定作品『二十六夜待ち』（12月23日公開）、新進俳優・成田凌と共演する『ニワトリ★スター』（2018年3月公開）、永瀬正敏と共演する『赤い雪 RED SNOW』（2018年公開）などの新作映画、「逃げるは恥だが役に立つ」の野木亜紀子脚本、石原さとみ、窪田正孝と共演する医療もののテレビドラマ「アンナチュラル」（TBS系・2018年1月クール）などが待機中。
今週末に公開される直木賞作家・三浦しをんの小説に基づく『光』（11月25日公開）では、少年時代に大災害を経験し、幼なじみの恋人のために殺人を犯した過去を持つ主人公に。妻と幼い娘とともに平穏に暮らす男が、25年後に幼なじみたちとの再会を経て封印してきた心の闇、暴力性を噴出していくさまを体現。瑛太、長谷川京子、橋本マナミらを相手に、迫真の演技を見せている。映画『さよなら渓谷』（2013）、WOWOWの連続ドラマ「かなたの子」（2013）に続いて3度目のタッグを組む大森立嗣監督からの信頼は厚く、本編には井浦のアイデアが採用されたシーンも見られる。（編集部・石井百合子）