現代にこそパンクを!『ヘドウィグ』ジョン・キャメロン・ミッチェル新作に込めた思い
ロックミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で世界を熱狂に包んだジョン・キャメロン・ミッチェルの新作映画『パーティで女の子に話しかけるには』は、内気でさえないパンク少年と遠い惑星からやってきた女の子が恋に落ちる、異色の“ボーイ・ミーツ・ガール”ムービー。2人を結びつけるきっかけとなるものこそパンクであるが、ミッチェルはそのパンク精神がいかに現代で大切かを語った。
エル・ファニングが異星人に!『パーティで女の子に話しかけるには』予告編
1970年代のロンドンを舞台にした本作は、反骨精神に満ちたパンクの熱気を感じることができるシーンに溢れているが、「若い俳優には、当時のパンクがどんな感じだったのかを教えなければいけなかったよ。彼らは『何それ?』って感じだったんだ。ちょうど劇中でエル(・ファニング)が演じている異星人のようにね」と振り返るミッチェル。しかし、パンクは決して“過去のもの”ではなく、いつどこにでもあるものだと持論を続ける。「パンクはどこにでも起こるものだし、自分自身のバージョンを持つことができる。日本にもパンクシーンはあった。どの地域にも独自のパンクカルチャーが存在していたと思う。それに現代こそパンクを使えるんじゃないかとも思っている。商業主義や保守主義、ナショナリズムに疑問を投げかけることができるからね。トランプが大統領になったようにいろいろなことが起きていて、それに対抗するのにパンクは有効なんじゃないかって」。
少年少女の恋物語を主軸にした本作で、ナショナリズムにも通じる“異なる存在をどう受け入れるか”というテーマを扱っているのは明らか。「今回偶然にも、ブレグジット(英国のEU離脱)のメタファーが入った。あるシーンでイギリスの国旗を身に着けた異星人たちが建物を飛び降りる。まさに、一度外に出たら、二度と戻って来れないぞ、というメッセージになった。本当に偶然(笑)。でもそれがストーリーの理にかなっていた。異星人たちは排他的なんだ。人間に汚されたくないし、だから彼らは死にゆく存在なんだ。侵入者を受け入れられないからね。ブレグジットやトランプが壁を作るとか、そういった考えに通じるし、僕が嫌っていることだ」。
ミッチェル自身、アメリカ軍人の父に、スコットランド人の母を持ち、アメリカやスコットランドなどの基地移り住みながら育ったため、「僕はクィアであり、ゲイであり、自然に国際的な考え方を身に着けた。どんな街に行っても、どんなクィアとも仲良くなれる。血縁というか、つながりを感じられるんだ。僕はとても保守的な軍の中で育ったわけだけど、トランプに比べたら、軍のほうがまだ国際主義的だと言えるだろうね。たくさんのアフリカ系アメリカ人もいて、おかげでファンクやソウルミュージックも僕にとってとても大事だった。『パーティで女の子に話しかけるには』なんてタイトルで、初体験とかそういったことを思い浮かべたりするかもしれないけど、ラブストーリーの下にあるこのテーマはとても大事なんだ。異星人たちの集団がパンクを知って、少し外の世界に飛び出そうとする、その経験が実際には進歩につながっていく、というか。だから僕にとってこの物語は、反国家主義についてでもあり、“心の感じるままに行動しろ”というメッセージでもあるんだ」と説いていた。(編集部・石神恵美子)
映画『パーティで女の子に話しかけるには』は全国公開中