ギレルモ・デル・トロ監督、特殊メイクの制作だけで3年!
『パンズ・ラビリンス』『ヘルボーイ』シリーズなどの鬼才ギレルモ・デル・トロ監督が、新作『シェイプ・オブ・ウォーター』(2018年3月1日公開)について、12月1日(現地時間)、ニューヨークのアンジェリカ・フィルム・センターでの上映後Q&Aで語った。
本作は、1962年、冷戦時代のアメリカを舞台に、政府の極秘研究所で清掃員として働く発声障害のイライザ(サリー・ホーキンス)と、アマゾンで崇(あが)められていたという特異生物の“彼”(ダグ・ジョーンズ)の交流を描いたファンタジー。イライザの同僚ゼルダにオクタヴィア・スペンサー、隣人で画家のギルズ役にリチャード・ジェンキンス、研究所を監視するストリックランド役にマイケル・シャノンなど、演技派が脇を固めている。
今作は、現在の社会を反映したタイミングの良い作品だという指摘に対し、デル・トロ監督は「そうではなくて、1962年こそが今(現在)だということを人々に知ってほしかったんだ」と製作理由を明かす。続けて「僕は風変わりな男で、移民でもある。その二つが原因で、僕の人生において物事や人を外観から観察する癖がついたんだけど、ここ数年、我々は人生のあらゆる側面において、忍耐力がなくなっているように感じるんだ。それは、イデオロギー(社会集団や社会的な立場においての信念や思想体系)が我々のプライベート空間を徐々に小さく切り裂きつつあるからじゃないかと。(社会には)憎むべき多くの理由もあって、そんな感情を持った際には、自分にもその責任があると思い、自分が何をすべきか考える人がいる。でもその一方で、全ての今の現状を、自分以外の人にその責任をなすりつける人もいるんだ。でも結局、これを繰り返していると最終的に災難と共に生きていくことになる。そういったテーマを、僕の作品群のほとんどで触れているんだ」と作品への強い想いを語った。
今作の特異生物は、怪物ではなく(人間がもたらした)不寛容の産物として描かれていることについて、「人間の(邪悪な)心こそがモンスターなんだ。僕が子供の頃から見てきたモンスターは、最も許されるべき不完全で美しき生物だった。今のソーシャルメディア社会では、(言葉が)とても残酷で、間違ったことを言ったりしただけで非難されることがある。僕が言いたいのは、誰もがもっと不完全であってもいいのではないかということ。もっと、我々は物事を台無しにするチャンスを与えられても良いと思うんだ」と持論を展開した。
特異生物のメイクアップについては、「2年間かけてデザインし、1年かけて今作で使われたものに仕上げていったんだ。ただ今作では、特異生物をクリエイトしたとは思っていなくて、主人公を手がけたと思っているよ。特異生物であっても、ちゃんと(表情がわかるように)演じられるもので、さらに水から上がってきた際に、その体形と色がとても綺麗なものにしたかったんだ。1ミリでも口や目の位置が違えば、全てが台無しになるくらいだ。それほど時間をかけて作り上げたんだ」とデル・トロ監督らしいこだわりを見せた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)