山田洋次&高畑勲との使命!大林宣彦監督、肺がん余命宣告も完成させた映画を若者たちに捧ぐ
肺がんで余命宣告を受けながらも最新作『花筐/HANAGATAMI』を完成させた大林宣彦監督が16日、同作の初日舞台あいさつに来場。本作のクランクイン直前だった昨年6月に、肺がんの第4ステージで余命宣告を受けた大林監督だったが、現在の状態は「余命は未定」とのことで、「まだまだ30年は撮り続けます」と創作意欲はさらに増しているようだった。
大林監督が、商業映画デビュー作『HOUSE ハウス』より前に書き上げていた幻の脚本を映画化した本作。太平洋戦争勃発前夜の佐賀県唐津市を舞台に、自分たちの命すら自由にならない若者たちの青春群像劇を描き出す。映画上映後、万雷の拍手の中、ステージに登壇した大林監督には花束が贈呈された。「いきなり花束を持って出てきましたが、これはアニメーション監督の高畑勲さんが先ほど届けてくれたものです」と明かす大林監督は、「以前ならこんなことはありえなかったんですが、最近は(インディーズ作家の大林監督と)アニメーション映画の高畑勲監督、メジャー松竹の山田洋次監督という、戦争を知っている世代が3人仲良く生きているので、そのメッセージを伝えようということなんです。わたしのメッセージは(本作を通じて)わたし以上に観ていただいたと思います」と語りかける。
舞台あいさつ中は椅子に座っていた大林監督だったが、キャストがひとことあいさつするたびに、それに対するコメントを差し挟むなど、元気な様子を見せる。そのコメントは熱を帯び、舞台あいさつの終了予定時刻を20~25分ほどオーバーするほどで、終始メッセージを送り続けた。
そして最後のあいさつを行った大林監督。「皆さん、わたしの病気のことを心配していただいておりますが。おかげさまで余命3か月のまま、1年と4か月を過ごしておりまして、あと30年は映画を作ろうと思っています」と語ると、会場からは拍手喝采が起こった。「あの戦争で、殺されていればまだ分かりますが、生き延びちゃって。がんごときじゃ死なないぞとわたしは思っていますんでね。世界が平和になるまで映画を作り続けたいと思っています。ただ、がんになったおかげで、この映画も、緊迫感がある映画になりました。ひとつ学んだことがあるんで、皆さんにお教えしましょうか」と続ける大林監督。
「がんも生き物なんです」と呼びかけた大林監督は、「がんも生きたがっているんです。生きたがっているから一生懸命わたしの筋肉を食べて、わたしの血を吸い、わたしの健康をむしばむことで、元気に生きているんです。考えてみてください。がんは宿子で、わたしは宿主なんです。がんが生きるためにめちゃくちゃなことをして、宿主を病気にさせてしまうと、がんも死なないといけないんです」と説明。
さらに「そう言いつつ、ふと思いました。わたしたち人類もがんじゃないかと」と付け加えた大林監督は、「この地球に暮らしていながら感謝の気持ちを忘れて。正しくしあわせになって、お金持ちになって暮らすためには地球の温暖化は大丈夫だ、よその国と戦争をするのも大丈夫だ。そう思って元気に生きているつもりが、私たち自身が、地球と一緒に滅びてしまうという運命を持っている。それを今、がんがわたしたちに教えてくれるんだと思います」とコメント。
そして大林監督は、“宿子”であるがんに向かって「お前にはしあわせに生きてほしいよ。せっかく共存しているんだから。お前をやっつけようとは思ってないよ。お前がここに存在しているんなら、一緒に長生きしよう。ただあまりお前がわがままに生きようとしたら、宿主の俺の方が死んでしまうから。もっと利口になりなさい。利口になれば、わたしと一緒にあと30年でも40年でも生きようね」と言っているそうで、「そう言うとね、ハイと言ってくれるんですよ。わたしたちも地球に向かって、素直にハイと言える人になりたい。特に未来を生きる若い人たちにね」とメッセージを送った。
締めくくりとして「もしこの映画にご賛同いただいたら、こんな映画は分からないだろうと思われるような小さなお子さんにも見せてあげてください。実は分かります、彼らは。言葉として理解することは難しいかもしれませんが、何かを感じてくれます。その感じてくれることが芸術の一番すばらしいことなので。どうか小さなお子さんにもこの映画を体験させてあげてください。そしてわたしも、未来の映画人たる皆さんとあと30年は映画を作っていきたいと思います」と呼びかけた。そして帰り際に「わたしの娘と、60年映画を一緒に作ってきた(プロデューサーで妻の)大林恭子です」と紹介。大林監督を支えた家族にも、会場からは大きな拍手が送られた。(取材・文:壬生智裕)
『花筐/HANAGATAMI』は全国公開中