斎藤工、たくさん「恥をかきたい」 リスク恐れぬ理由
バラエティー番組では空前絶後のギャグを全力でやり切り、映画化もされた『昼顔』では世の女性のハートをわしづかみに。その一方で、映画のない被災地や発展途上国の子供たちに移動映画館で映画を届けて回り、最新作『パディントン2』ではヒュー・グラント演じる落ち目の俳優役を軽やかに吹き替えてみせた。一見、つかみどころがないように見えるが、その中心には揺るぎない“映画愛”が根を張っている。「たくさん恥をかきたい」という斎藤工が、内に秘めた自身のキャリアへの思いを語った。
低音の甘い声と、物腰の柔らかさを見ていると、バラエティー番組やCMで見る“潔い”斎藤がとても同一人物とは思えない。それが逆に彼の魅力となってファンを増やしていることも事実だが、「リスク」という文字が頭をよぎることはないのだろうか。そんな問いに斎藤は「全くないです。そもそも僕が築いたポジションなんてないと思っていますし」とキッパリ。「イメージがどうとか、ライバルがどうとか、ランキングが上がったとか下がったとか、日本にいると、俳優さんはレース場に並べられた競走馬のような扱いを受ける。これがなんだか切ないんです」と吐露する。
世界の映画祭にも足を運ぶ斎藤にとって、日本は少々息苦しいようだ。「シッチェス・カタロニア国際映画祭では、街の立ち飲みバーでイーライ・ロス監督とギャスパー・ノエ監督が酒を酌み交わしながら映画の話をしていたんです。行く先々で必ず目にする光景ですが、映画と真摯に向き合っている人たちを見ると、すごく健全だと思えました」と目を輝かせる。「映画祭へ行くたびに、日本で壁打ちのように返ってくるボールばかり気にしているのは『狭い考えだな』と思えてしまって。もっと壁の向こう側にボールを投げることを考えないと、なかなか進歩しないですよね」。
さらに、守りに入ることを嫌う斎藤は「恥をかくこと」を意識的に自分に課している。「40代を豊かにするには、今、たくさん恥をかくべきだと思います。今から守りに入ると、自分が恥ずかしいと感じないものしかやらなくなってしまう。そんな俳優、ワクワクしますか?」と語気を強める。「自分で何かを確立することは素晴らしいと思いますが、それを薄味にして延々やっていっても、人の心は動かせないなと思うんです。自分の可能性を信じるって言ったらかっこつけすぎですが、たぶん、もっと何色もあると思うんです」。
映画愛を軸に、貪欲に自身の“色”を増やし続けている斎藤が、新たに挑んだ作品が、マイケル・ボンドの児童文学を実写映画化した『パディントン2』。ペルーのジャングルから憧れのロンドンへ移住し、心優しいブラウン一家に迎えられたクマのパディントンが、ある秘密が隠された絵本をめぐり、落ち目の俳優・ブキャナン(ヒュー・グラント)と追いつ追われつの攻防を繰り広げる。日本語吹き替えキャストとしてブキャナン役に挑んだ斎藤は、松坂桃李演じるパディントンに罠を仕掛けるが、果たしてその結末は?
「僕自身、ブリティッシュシネマにめちゃめちゃ影響を受けていて、『パディントン』も大好きな作品だったので、オファーをいただいたときは素直にうれしかったです」と笑顔を見せた斎藤。「近年のヒュー・グラントがすさまじい振り幅を見せてきているところも面白い。今回の悪役も、かなり楽しんで演じているのが映像からヒシヒシと伝わってきたので、僕も楽しんで吹き替えをさせていただきました」と最後は力強くアピールしていた。(取材・文:坂田正樹)
映画『パディントン2』は1月19日より全国公開