子供への愛が欠乏した夫婦…ロシアの鬼才が描いた衝撃作とは
映画『父、帰る』『裁かれるは善人のみ』などを手掛けたロシアの鬼才、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督が、1月12日(現地時間)、ニューヨークのランガムホテルでの単独インタビューに応じ、新作『ラブレス』(4月7日 日本公開)について語った。
【作品写真】子供への愛が欠乏した夫婦を描いた衝撃作『ラブレス』
本作は、第70回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したヒューマンドラマ。大企業で働くボリス(アレクセイ・ロズィン)と美容院を営むイニヤ(マリアナ・スピヴァク)夫婦は、離婚協議中。12歳の一人息子アレクセイを互いに押し付け合うが、ある日、アレクセイが行方不明になり……。子供への愛が欠乏した夫婦を克明に描いた衝撃作。
今作を手掛ける上で、ある事件に影響を受けたと語るズビャギンツェフ監督。「行方不明になった子供たちを捜すボランティアグループの設立者が、ある時、5歳の少女を懸命に捜していたものの、5日目にその少女を遺体で発見したんだ。ところが、その少女は発見の6時間前まで生きていたことが判明した。彼は、6時間前まで(5日間も)その少女が生きていたという十分な情報が得られなかったことにいら立ちを感じたそうだ。その理由の一つは、ボランティアグループが、政府から全くサポートされていなかったことにあるんだ」と明かし、続けて「事実、昨年も多くの人が行方不明になったが、今作を手掛けたことで、このボランティアグループに焦点が当てられ、現在は、高い確率で彼らが行方不明になった人々を捜すことができているそうなんだよ」と現状を説明した。
ロシアでの子供を持つ共働き家庭のための対応について聞かれると、「僕は政治家や社会学者ではないので、子供を保護する施設が増えているかは統計的に明確にはできないけれど、幼稚園児や遠くの小学校に通う両親が共働きの生徒には、エキストラ・カリキュラム(課外授業)を用意して、両親が迎えに来られるように対応しているところもあるそうだ。それが機能しているかはわからないけどね」と答えた。
離婚協議中の夫婦を演じたアレクセイとマリアナについては、「アレクセイは僕の映画『エレナの惑い』『裁かれるは善人のみ』の2作に出演してくれた素晴らしい俳優で、それとは対照的に、マリアナにとっては今作が初の長編作品だ。マリアナが演じたイニヤは感情の起伏が激しく、体を張った難しい役柄だったが、そんな役柄を彼女は脚本を読んですぐに吸収していたね。実はマリアナは俳優の両親のもとで育ち、さらに彼女のおばあさんは、ソ連映画の名作『誓いの休暇』の女優ジャンナ・プロホレンコなんだ」と明かした。
今作のテーマについては、「今作は、大人の精神面を描いたもので、エゴイズムによって大惨事に陥ってしまう。子供に関してのメッセージ性みたいなものはないんだ。子供との関係において、自分の道徳的観念を見つめ直すことや、自分の倫理観に疑念を持つことの必要性を訴えているよ。今作が多くのロシア人の共感を得たのは、彼ら自身が今作を通して見つめ直す機会が与えられたと感じたからだと思うね」と語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)