松坂桃李、戦隊ヒーロー時代を振り返る
映画『不能犯』で人を死に導くダークヒーローにふんした松坂桃李が、デビュー作である「侍戦隊シンケンジャー」シリーズで戦隊ヒーローを演じていた当時の思いと、この先の展望を語った。
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松坂の原点は、2009年の「侍戦隊シンケンジャー」で演じたシンケンレッド。センターに立つメインの役どころだったが、当時は「シンケンジャーが終わったら、休学していた大学に戻ろうと思っていました」と俳優を続けていこうとは微塵も思っていなかったと言う。その後、「いろいろな出会いや経験を重ねさせていただいたことが、この仕事を続ける覚悟につながりました」と明かすが、戦隊シリーズで学んだ多くのことが、その覚悟の俳優活動で大いに役立ったことは想像にかたくない。
「戦隊の撮影現場は縦社会なんです。体育会系というか。歴代の特撮を撮ってきた大ベテランのカメラマンさんが中心で、その方が撮影現場をピリッとさせてくださる。礼儀といいますか、古き良き伝統のあるべき姿を、肌で感じさせていただきました」と松坂は戦隊の撮影現場での経験を大きなものとして受け止めている。それは、いまも作品に入る際のスタンスとして体に染みついており、「ありがたいです」と感謝の言葉をしみじみと口にした。
そんな原点で得た経験をもとに、松坂は「これから先もこの仕事をやっていくために、色の違う作品をたくさんやろう」という決意を実践している。心優しきオカマ、残虐なテロリスト、ゆとり世代の教師、音楽の夢を追う等身大の青年、人間性がペラペラなクズ男などなど。現在放送中のNHKの連続テレビ小説「わろてんか」での夫役を含め、近年演じたさまざまな役柄の中の一つが、『不能犯』で演じた宇相吹(うそぶき)だ。
宇相吹は、思い込みやマインドコントロールだけで他人を死に追いやることができる、松坂いわく「人間ではなくて、人の欲や業が作り出した」という存在。「人生でここまで口角を上げたことがない」というほどのニタァという不気味な笑いを浮かべる姿は、松坂の新境地といえる。特撮の現場で得た古き良き伝統を自身の中で熟成させ、新たな世界へと展開している松坂。この先、彼が見せてくれるであろう世界も、きっと新しさに満ちている。何が飛び出すか、楽しみに待っていよう。(取材・文:早川あゆみ)
映画『不能犯』は全国公開中