いまのアメリカに必要な英雄とは?名匠クリント・イーストウッドに聞く
名匠クリント・イーストウッド監督が、実際に起きたテロ事件を映画化した『15時17分、パリ行き』。銃を持った犯人に立ち向かった、3人のアメリカ人青年たちにスポットをあてた本作でイーストウッド監督は、主演にその若者たち本人を起用した。ここ数作にわたって、現実のヒーローを題材にしてきた名匠は彼らに何を見たのか。話を聞いた。
2015年、554人を乗せたアムステルダム発パリ行きの高速国際鉄道タリス内で発生した無差別テロ「タリス銃乱射事件」。本作の主人公は、この事件を解決に導いたアメリカ人旅行者のスペンサー・ストーン、アレク・スカラトス、アンソニー・サドラーら3人の若者たちだ。彼らのうち2人は軍歴にあったが、演技は全くの素人。しかしイーストウッド監督は、「実際の体験者に演じてもらうことが面白い試みだと思った」と本人のキャスティングを決めた。
「僕はこれまで、実際のヒーロー(英雄)の映画をたくさん作ってきた。多くはもう存在しない(亡くなっている)人たちだから、当時の胸中を想像したりしていた。『きっとひどい状態だったに違いない』とかね。でもこの映画では、3人と一緒にすごして、彼らが何を感じていたのかを正確に把握できた。彼らの成し得た、素晴らしい行いに携わるのは本当に楽しい経験だったね」。
墜落間際の航空機を凍った川に不時着させ乗客の命を救った機長を描く『ハドソン川の奇跡』、戦場で多くの敵を射殺し英雄とされた男の苦悩を描く『アメリカン・スナイパー』など、多くの英雄を題材にしてきた名匠にとって、現在のアメリカにはどんなヒーローが必要なのか? イーストウッド監督は同席した3人を見ながら、「この連中だね。彼らは(ヒーローというものを)象徴している」と語る。「つまり、そこにいて人生を送っている人たちだ。彼らは、正しいときにするべきことをした。もしかしたら、全員があっという間に撃たれていたかもしれない。(そうなったら)ストーリーはそこで終わりだったね(笑)。この若者たちは、困っている人を助けたいと思う連中だ。そして観客も、彼らにいて助けてもらいたいと思える存在なんだ」。
その言葉にアレクは「確かに軍のトレーニングは役に立った。でも、ほかの誰でもテロリストに向かっていくことはできたと思う」と語る。「別に事故や自然災害でも関係ない。どんな出来事であっても、911(緊急番号)に電話したり、応急措置をしたり、被害者に水をあげたり、ポジティブにかかわることはできる。携帯電話でその出来事を録画をするんじゃなく自ら貢献するんだ。『普通の人々も、驚くべきことができる』。宣伝文句っぽいけど、それこそがこの映画のテーマだと思っているよ」。
そんな彼らにとって、映画は誇らしいものになったようだ。「正直、ちゃんと映画になるのか、気が気じゃなかった。『僕らはどう描かれている? 描写は正確になのか? それは20年後に観てもハッピーでいられるものなのか?』って感じだった」というアンソニーは、「でも実際に映画を観たら、『自分の子供や家族、多くの人たちにこの先、永遠にわたって観せられるものだ』と思ったよ」と笑顔を見せた。(編集部・入倉功一)
映画『15時17分、パリ行き』は3月1日より全国公開予定