映画『ママレード・ボーイ』勝算は?原作完結から20年、実写化の意図
1990年代に大ブームを巻き起こした吉住渉による少女漫画「ママレード・ボーイ」が、連載終了から20年以上の時を経て、実写映画化される。群雄割拠が続く少女漫画原作モノ、そして実写化に反感を呼ぶこともある超人気原作。プロデューサー陣が見る映画『ママレード・ボーイ』の勝算とは?
12月、マスコミ向けに撮影現場が公開された。互いの両親がパートナーを交換して再婚したことから、一つ屋根の下で暮らすことになった主人公の光希と遊。そのふた家族が暮らすシェアハウスでのシーンで、都心から少し外れた地にあるこの家は、本作の撮影のために建てられた一軒家。内装も細部までこだわりぬき、実際に家族が暮らしているかのような空間が出来上がっていた。ここまで気合を入れるのも、それ相応の成功への確信があってこそのはず。
いまの日本映画界のトレンドといえる漫画原作モノ。『ママレード・ボーイ』(4月27日公開)と同じ今春公開のものだけでも、『坂道のアポロン』『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』『となりの怪物くん』と少女漫画原作の作品はいくつもある。取材に応じた松橋真三プロデューサーは「『ママレード・ボーイ』をなぜいま? というのが皆さんの頭の中にもあると思うんです」と認めつつ、「実写化してほしい少女漫画」を問うアンケートで同作がダントツ1位となった結果が実写化の後押しになったと紹介。さらに、「この漫画の特徴である、若いカップルだけでなく親も交えた面白いお話があるというのが、たくさん映画化されている少女漫画の中で格別に違う点」であり、そのホームドラマ的要素こそが「逆に今となってはすごく新しいのではないか」というのが企画の発端となったそう。
その上で、原作の連載から20年という時代のギャップもプラスに捉えている。少女漫画特有の胸キュンが響く若者だけでなく、原作世代も視野に入れ、二つの層をターゲットに据えている。原作が流行した90年代前半というと、トレンディードラマが一世を風靡した時代。その頃に、ドラマ界を席巻していたような顔ぶれが「ひょっとしたらこんなことをしたかもしれない」という想像をかきたてることが、キャスティングの狙いだった。その結果、主人公の親たちには、中山美穂、檀れい、谷原章介、筒井道隆という俳優陣がそろった。これに、北島直明プロデューサーも「トレンディードラマでキラキラした時代を経験した人がいまはお父さんで、キラキラした息子が出てきたという。『ママレード・ボーイ』が幅広い世代に愛されてきた作品だからこそ、当時読んでいた方は両方楽しめるのではないかと思います」と付け加える。
しかし、実写化が発表された際には「スマホは登場するのか?」という声が上がるなど、時代のズレを不安視するファンがいるのもたしか。それについても、時代設定を現代にしたことで、齟齬は生まれなかったという。北島プロデューサーは、「スマホがないと待ち合わせもできないという既成概念はありますが、光希と遊は同じ屋根の下に住んでいるので、2人の関係においてスマホの必然性はありませんでした。なので、原作にある空気感を維持しつつ、物語に無理が生まれることはありませんでした」と説明。
そして、自信の根拠のもう一つは主演2人のキャスティング。光希役の桜井日奈子と遊役の吉沢亮という2人の存在が光明だった。少女漫画実写化モノが多く世に出ていく中で、「見たことのある2人の組み合わせになった瞬間、この作品はダメになる」という認識がプロデューサー陣にはあったという。そこでたどり着いたのが桜井と吉沢。“岡山の奇跡”のキャッチコピーで注目を浴びる期待の新星・桜井と、意外にも漫画原作の王道イケメンキャラで主役を務めることがなかった吉沢にとっては大きな挑戦になるが、その“新鮮”さが強みになるかもしれない。(編集部・小山美咲)