企画から15年以上!思想家カール・マルクスの若き日を描いた伝記とは
マルクス主義を確立したドイツの思想家カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの若き日を描いた話題作『マルクス・エンゲルス』(4月28日 日本公開)について、ラウル・ペック監督が、2月20日(現地時間)、ニューヨークのThe Orchardのオフィスでインタビューに応じた。
【写真】スターの逸材!ヴィッキー・クリープス『ファントム・スレッド』より
1840年代のヨーロッパ。経済格差による貧困や労働条件に怒りを覚えた20代半ばのマルクス(アウグスト・ディール)は独自の経済論を唱えるが、その内容が過激すぎて、ドイツ政府から妻と共に国外追放される。だが行き着いた先、フランスのパリで、エンゲルス(シュテファン・コナルスケ)と出会い、二人は新たな労働運動を率いるために動き出していく。マルクスの妻イェニー役を、ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ファントム・スレッド』のヴィッキー・クリープスが演じ、映画『私はあなたのニグロではない』のペック監督がメガホン取った。
西欧でカール・マルクスに関して描いた初の長編作品である本作について、ペック監督は「本作は2時間の映画だ。だから、僕はマルクス自身が徐々に進化し、彼の中でアイデアの革命が起きた時期、必要不可欠と思うマルクスの若き日を描いたんだ」と語り、マルクスのアイデアを映画に取り入れ、観客にそのアイデアを把握させながら、一つの伝記映画として描くのは、とても困難だったと明かした。
移民問題を抱えるトランプ政権の時代に、本作を描いた意味を聞かれると、「意識的に本作を手掛けなければいけないと思ったのは、(企画を立ち上げた)15年以上も前の話で、『私はあなたのニグロではない』と本作を10年前から同時に製作していたんだ」と前置きしながらも、「われわれのリーダー(トランプ米大統領)は、ポピュリズム(一般の利益、権利、願望、不安を利用して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義の知識人などと対決する政治思想)の支持者で、彼はアメリカを再びグレートな国にすると吠えているが、彼の発言は全く意味をなさないんだ。そんな言葉を聞いて、アーティストとしてどう返答したらよいか考えた時に、映画という媒体を通して、現代の若い世代に(本作を通して)アイデアの構築を伝えたかったんだよ」と説明した。
キャスティングについては、「ヴィッキーは本当に素晴らしい発掘だったよ。実は、(出演している)短編の10秒くらいセリフのないシーンの動きを観ただけで、彼女に決めたんだ。一方、マルクスやエンゲルスは、舞台出身の俳優でキャストしようと思っていたよ。舞台出身の俳優は、自分でキャラクターをクリエイトできるからね。また、映画内で使われる英語、ドイツ語、フランス語の全てを把握できる俳優を選びたかったんだ。映画内のキャラクターを通して、スター俳優を作り上げることはできる。テレビ映画『ルワンダ 流血の4月』のイドリス・エルバや本作のヴィッキーのようにね。だから知名度のある俳優は、それほど重要ではなかったんだ」と語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)