たくさんの裸体が登場!意欲作の受賞で際立った映画祭の意義
第68回ベルリン国際映画祭
第68回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で金熊賞、銀熊賞を受賞した作品の見どころを、受賞者会見でのコメントと共に振り返ってみたい。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)
最高賞である金熊賞は、さまざまな意味で挑戦的な意欲作『タッチ・ミー・ノット(原題) / Touch Me Not』が受賞。アディナ・ピンティリエ監督にとって初の長編でもあり、初長編作品賞とのW受賞という快挙になった。ピンティリエ監督はワールドプレミアとなった日のことを振り返り、「プレスがどう反応するか、観客がどう反応するか、とても気になっていました。なぜなら、この映画は会話への招待だからです。わたしたちは観る人に対して、親密さ、美しさ、他者とつながる意味といったことを再考させようとしています」と語る。
本作には性的な事柄に絡み、たくさんの裸体が登場する。必ずしもモデルのような体だけではない。老いた裸体、障害を持つ人の裸体、がっちりした男性の骨格に女性の胸がついた裸体など、ややもすれば見世物的な関心に堕しそうだが、そうならないのは主人公である女性の親密さへの強い希求があるからだ。強く求めながら、同時に怖れ、反発しようとする主人公の内面が観る側に共有される。
ピンティリエ監督が「多くの人にとって心地よい映画ではないかもしれません」と言うように、商業ベースには乗りにくい映画であろう本作が、この受賞でより多くの人に届けられることにあらためて映画祭の意義を感じる。
アルフレート・バウアー賞とアーネ・ブルンの最優秀女優賞で二つの銀熊を獲得した『ザ・エアレセズ(英題) / The Heiresses』もそんな作品だ。あるいきさつから失意と戸惑いの中にいる初老の女性主人公が、少しずつ変化していく過程が描かれる。パラグアイのマルチェロ・マルティネッシ監督は「わたしたちは非常に保守的な国から来ました。ラテンアメリカのマッチョな社会では女性を主人公にするだけで大変です」と受賞がこれからのパラグアイ映画界に与える影響を含めた喜びを語った。
ベテランのアーネとは対照的に、最優秀男優賞は『ザ・プレイヤー(英題) / The Prayer』の若手のアントニー・バジョンが受賞した。キリスト教のリハビリ施設で薬物依存などこれまでの生活からの脱却を図りつつ、愛と信仰の間でもがく青年をみずみずしく演じていた。
審査員賞は、ヘヴィメタ好き青年を主人公にコメディータッチを交えつつ次第に社会問題やアイデンティティーの問題も含んで展開していくポーランド映画『マグ(英題) / Mug』が受賞した。劇中で使われる音楽がメタリカなのは「ポーランドではヘヴィメタの人気がありますし、ポーランド的とも思います」とマウゴシュカ・シュモフスカ監督はいう。
最優秀脚本賞はメキシコ映画『ミュージアム(英題) / Museum』のマヌエル・アルカラ&アロンソ・ルイスパラシオス。博物館からのお宝泥棒という荒唐無稽のようなお話だが、「父がジャーナリストだったので博物館ができた時のことをとてもよく覚えています」と主人公の少年期はマヌエル自身とも重なっていたようだ。
実在したソ連の作家セルゲイ・ドヴラートフを描き、金熊有力とも目された『ドヴラートフ(原題) / Dovlatov』は、「全てこの映画のために作りました」というコスチュームとプロダクションデザインでエレナ・オコプナヤが芸術貢献賞を受賞した。
開幕作として最初に上映され、高評価で審査のスタンダードを上げたであろうウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』は監督賞を受賞。本作は日本を舞台にしたストップモーションアニメーションで、会見には監督に代わって声の出演のビル・マーレイが出席し、ジョーク連発で会場を沸かせた。