中国からの圧力の中、香港デレク・チウ監督にグランプリ授与でエール!
第13回大阪アジアン映画祭のコンペティション部門などの授賞結果が17日に発表された。グランプリには、中国からの圧力を受け続けている香港の歴史と今を描いた社会派映画『中英街一号』(香港)が選ばれた。同様のテーマで描いた香港映画『十年』(2015)が数々の映画賞に輝きながら中国での上映禁止となった後だけに、勇気ある製作に挑んだデレク・チウ監督たちに賞でエールを贈る形となった。
タイトルの中英街とは、香港特別行政区と中国広東省深センが共同管理する沙頭角地区にある境界線を意味する。同地区は英国統治時代の1967年に起こった香港暴動(六七暴動)の際に辺境地区として封鎖され、以来外国人はおろか、香港市民でも立ち入るには“禁区紙”という特別な通行証が必要だという。
デレク監督は当時と2014 年の雨傘運動に象徴される現在の香港の状況が類似していると感じたことから、2つの時代を背景にした本作を製作。それぞれの運動に身を投じた若者たちを交錯させ、政治や時代に翻弄され続けている香港の歴史と人々をあぶり出している。
当局の圧力が言論や表現の自由を脅かし、香港映画界でも自粛ムードが流れる中での製作は、資金やスタッフ・キャストを集めるのに苦労し、結果、スタッフはノーギャラで参加。そして構想から完成まで、実に8年の歳月がかかったという。ワールドプレミアとなった本映画祭ではデレク監督も観客と一緒に観賞していたのだが、自分の映画を観ながら変貌してしまった香港に思いをはせ、涙を流していたのが印象的だった。
リム・カーワイ監督をはじめとする審査員は受賞理由について「審査委員一同、深い感銘を受けました。観る者ひとりひとりの感情を高ぶらせ、心を揺さぶり、登場する若者たちに共感させる、力強く、勇敢な作品です。間違いなく、わたしたちの世代にとって重要な意義を持つ作品です」と評した。
前述した『十年』の例があるだけに、今後の香港での公開は予断を許さない状況ではあるが、デレク監督は「これまで18本の作品を手掛けて、初めての受賞ではありませんが、今までの映画人生の中で最も重要な賞です。映画祭に感謝を申し上げると同時に、これを機に、香港でも観ていただけるように努力していきたいと思います」と決意を新たに語った。
また今回特別に最優秀女優賞が設けられ 、インド出身のアンシュル・チョウハン監督が日本で撮影した『東京不穏詩』に主演した飯島珠奈に贈られた。飯島は、俳優志望だった女性の転落人生を体当たりで演じており、審査員を代表してベトナムのファン・ザー・ニャット・リン監督から「魂のこもった演技、特に極限状態の中での抑制の効いた感情表現を、高く評価します」と賛辞が贈られた。(取材・文:中山治美)
受賞作は以下の通り。
【グランプリ(最優秀作品賞)】(副賞:賞金50万円)
デレク・チウ監督『中英街一号』(香港)
【来るべき才能賞】(副賞:賞金20万円)
ミカイル・レッド監督『ネオマニラ』(フィリピン)
【最優秀女優賞】
飯島珠奈『東京不穏詩』(日本)
【ABC賞】(朝日放送が最も優れたエンターテインメント性を有する作品に授与。副賞:テレビ放映権料相当の100万円)
シェ・チュンイー監督『私を月に連れてって』(台湾)
【薬師真珠賞】(輝きを放っている俳優に授与。副賞:真珠装飾品)
ライザ・セノン『ミスターとミセス・クルス』(フィリピン)
【JAPAN CUTS Award】(ニューヨーク市のジャパン・ソサエティーがエキサイティングかつ独創性にあふれる作品に授与)
速水萌巴監督『クシナ』(日本)
【芳泉短編賞】(芳泉文化財団により創設されたスポンサーアワード)
金井純一監督『CYCLE-CYCLE』(日本)
【観客賞】
パン・ホーチョン監督『恋の紫煙3』(香港・中国)