リュック・ベッソンが観客に訴える 映画界に今必要なこと
映画『レオン』『フィフス・エレメント』などで知られる巨匠リュック・ベッソン監督が10歳のころから愛読していたというSFコミックスを実写映画化した『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』のPRで来日した際に、映画界に今求められていることを力説した。
ベッソン10歳から憧れ続けた作品!『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』映像
フランスのSFコミック「ヴァレリアンとローレリーヌ」を原作に、28世紀の宇宙で銀河をパトロールするエージェントのヴァレリアン(デイン・デハーン)とローレリーヌ(カーラ・デルヴィーニュ)が、全宇宙の存亡を揺るがす陰謀に立ち向かうさまを描いた本作。ベッソン監督は、およそ1億7,720万ドル(約194億9,200万円、1ドル110円計算)という莫大な製作費をつぎ込み、本作を完成させた。
実際、その数字はフランス映画史上最高額の製作費とされており、どれほどベッソン監督が情熱を注いできたプロジェクトであったかがうかがえる。「僕のDNA的にあきらめることはできなかった。この映画をやるか、死ぬかだ」と、本作を完成させること以外の選択肢がなかったことを語るベッソン監督。ハリウッドの大手スタジオ以外ではありえないような巨額の映画を製作した苦労について問うと、わずかな沈黙の後で「とても大切なことが一つある」と切り出す。「観客には選択肢が必要ということだ。誰も、あの映画よりこの映画を観るべきなんて押し付けられるべきじゃないと思っている。観客は自由であるべきで、劇場に10本の映画がかかっていれば、そこから選べる。でも作り手も受け手も怠惰なあまり、劇場にかかるのがアメリカのブロックバスターだけになってしまったらおしまいだと思う。日本映画、フランス映画、イタリア映画、中国映画、そしてもちろんアメリカ映画、というように選択肢が与えられるべき」。
「例えば、食事かジムに行くかのどちらかを選べと言われたら、僕は食事を選ぶ(笑)。でも、健康のために、少なくとも週3でジムに行かなくてはいけないというのもわかっている。エクササイズがたとえつらくても、体にいいと知っているからだ」とちゃめっ気たっぷりにたとえ話を織り交ぜながら、「それは監督にも観客にも言えること。監督は自分のつくりたい映画のためにリスクを背負う。そして観客が、『今日は日本の若手監督の作品を観てみよう』と応援するのがとても大事なこと。そうして選んだ作品は完璧じゃないかもしれないけれど、『冒頭20分はとてもよかったけど、残りはもっとよくできたんじゃないか』なんて、そういう思考をめぐらせることで、観客自身の視野も広がっていく。マーベル映画を何十回と繰り返し観るよりマシだ。映画館に行って、10本中10本がマーベル映画になったら僕は映画館に行きたくないね。僕が黒澤明や宮崎駿の映画をどれだけうれしく思ったことか。もちろんたまにマーベル映画を観るのは好きだよ。そういう意味で、映画界を活性化するのに、観客にも責任があって、リスクを冒してほしいと思っている」と熱弁した。(編集部・石神恵美子)
映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は全国公開中