いじめをなくすには？「13の理由」脚本家が明かす、現代の切実な学園事情
ネットいじめをきっかけに一人の少女が自殺へと追い詰められた過程を赤裸々に描いたNetflixオリジナルドラマ「13の理由」。2017年3月にシーズン1が世界同時配信されて以来、スマートフォンやSNSを通した友情、恋愛、人間関係など現代の若者たちの心の闇をリアルに描いていると話題の作品だ。先ごろ、シーズン2の配信を前に来日した、脚本・製作総指揮担当のブライアン・ヨーキーに、作品に託した思いや撮影秘話を聞いた。
「13の理由」は、主人公の高校生クレイ（ディラン・ミネット）が自殺した女子高生ハンナ（キャサリン・ラングフォード）が遺したカセットテープを聞き進めていくうちに、彼女が死を選ぶに至った衝撃の真実を知ることになるというストーリー。原作は2007年に米国で出版された同名のヤングアダルト小説。
これまで数々のヒットミュージカルの劇作家、プロデューサーとして活躍し、トニー賞やピューリッツァー賞を受賞したヨーキーが、この原作と出会ったのは、14歳の姪に勧められたのがきっかけだった。「一夜で読み切ってしまうほど、非常にパワフルな物語だった。登場人物たちが素晴らしくて、僕が学生だった頃、周りにいた同級生やいろいろな人たちを思い出したよ。そして、自分がうまく付き合えなかった人たちに対する後悔の念がよみがえってきた。本を読んだだけで、そんな気持ちにさせるなんて、テレビシリーズ化するに足る重要なテーマがあると思ったんだよ」と語る。
ドラマは、同級生とのキス写真をSNSで一斉に拡散されたことから校内で孤立化していくハンナを軸にしながら、彼女を死に追いやった側の人間たちもまたいじめや暴力、性差別などの問題に直面している姿を描き、思春期ならではの複雑な心情やプレッシャーにさらされている現代の若者たちの実態を生々しく映し出す。「僕が高校生だった頃もいじめはあった。でも、当時はインターネットもSNSもないから、噂が拡散するにしても、何日も何週間もかかった。それが今は一瞬で広がり、ネットいじめは24時間途切れることがない。もしも今、僕が高校生だったら、生き延びられなかったんじゃないかと思うぐらい恐ろしい状況だと思うよ」とヨーキー。
本作では、そんな現代ならではの問題を真正面から描くため、いじめやうつ病、自殺といった問題に関しては誠実にリサーチ。脚本段階から、内科医、精神科医などエキスパートたちにアドバイスを受け、「表現に関しては、十分注意を払って描いた」という。また、非常にセンシティブなシーンを演じた若い俳優たちのケアにも心を配っている。「実はプロデューサーのアイデアでセットにセラピードッグを連れて来たんだ。過去にそんな話は聞いたこともなかったし、効果があるのかと半信半疑だったんだよ。でも、実際には、犬たちはものすごく俳優たちの心の支えになったようだ」。
シーズン1が配信されるや、SNSや口コミで評判が広がり、全米では社会現象まで巻き起こすことに。「僕の元にも、実際にこういうことが自分の学校で起きているという声も数多く届いた」とヨーキー。図らずも今、セクハラが世界的に問題視されているが、「最近のニューヨーク・タイムズの記事にあったけれど、Me Too 運動は高校にも及んでいる。つまり、大人の世界で起こっているというセクハラ問題の根源は、子どもたちが過ごす学校生活の早い段階で始まっているんじゃないかと思う」という。そして、こうも続けた。「セクハラやいじめ、性的暴力といったことは、誰も何も言わないで問題が埋没してしまうことが一番よくない。声をあげることで、すぐ問題が解決するわけではないけれども、少しずついい方向に向かっていく。この番組が、そんな動きの後押しになればと思う」。
そもそもティーンに絶大な人気のある歌手で女優のセレーナ・ゴメスが原作に共感し、自ら製作総指揮として6年以上の歳月かけて、映像化させたことで若者に広くアピールした。一方、ヨーキーは「若者たちの現実を描いたストーリーは、30代以上の親世代の心にも響き、誰もが共感できると思う」と幅広い年齢層に刺さる作品であることを強調。「人間の本質は変えられない。だから、これからもいじめはなくならないだろうし、意地悪な人間もいるだろう。でも、SNS自体は新しいツールなので、うまく使っていく方法だって見つかるかもしれない」と語った。
5月18日からは待望のシーズン2が世界同時配信される。「ハンナの死を受けて、“正義”について描かれることになる。また、事件によってトラウマを経験した者たちはどうやってそれを癒やしていくのか。さらにはハンナが実は大きな秘密を持っていたという新たな謎も解き明かされて……と、おっとこの先は言えないな（笑）」と新たな見どころをアピールした。（取材・文：前田かおり）
Netflixオリジナルシリーズ「13の理由」シーズン2は5月18日より全世界同時オンラインストリーミング