是枝裕和監督、新作打ち合わせでNYへ 帰国会見で報告
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞した映画『万引き家族』(6月8日公開)の是枝裕和監督が23日、羽田空港で行われた凱旋帰国会見にトロフィーを手に出席。報道陣のフラッシュを浴びながら、「ようやく帰ってスタッフのにこやかな顔を見ましたら、ちょ っと実感が沸いてきました」と笑顔で喜びを語った。
日本人が同賞を受賞するのは、1997年の今村昌平監督作『うなぎ』以来21年ぶりで、日本人監督としては史上4人目。本受賞に対する反響も大きく、会見前にはスタッフより上映館が予定されていた200館から300館以上に増加、6月8日の初日を前に2日・3日に先行上映を行うこと、そして海外では『そして父になる』を超える勢いで149の国と地域で権利が売れたことが発表された。
是枝監督自身も冒頭のあいさつ後には「来月の公開に向けてまだ宣伝活動があり、緩んだ笑顔を見せている場合ではないので、公開に向けて走っていきたいと思います」と身を引き締め、帰宅してまずやりたいことを問われると「LINEとメールが山のようにたまってしまって、まだ返事ができていません。今年はずっと撮影をしていて年賀状すら出せていないので、お礼くらいはちゃんとそれぞれの方たちに一言でもメッセージを返したいと思います」と話した。
カンヌ映画祭後には新作の打ち合わせのためニューヨークへ渡ったそうで、「近々、おそらく製作発表が行われるだろうと思いますので、そこまでちょっと待っていただきたい」と報告も。この際、トロフィーはスタッフに預けていたそうで、「いただいた当日は授賞式からディナーまでずっと持ち続けていて、しかも顔の近くに上げてくれといわれるものですから、筋肉痛が治ったのがようやく昨日くらいでした。さすがにこれを持ってニューヨークに行くわけにいかなかったので、スタッフに預けて金庫に保管していただいてここで再会しました」と改めてトロフィーのずっしりとした重みをかみしめた。
カンヌでは上映後に取材を受けた記者の感想から、手ごたえを感じていたことも振り返った是枝監督。特に授賞式後の公式のディナーでは審査委員長を務めた女優のケイト・ブランシェットが安藤サクラの泣く演技に熱く語っていたことに触れ、「『もし今回の審査委員のわたしたちがこれから撮る映画の中であの泣き方をしたら、安藤サクラさんの真似をしたと思ってください』とおっしゃっていました。その時、それくらい彼女の存在感が審査員を虜にしたのだとよくわかりました」と感慨深げ。自身も撮影中には「カメラの脇に立っていても特別な瞬間だなと思うことは何度かあった」そうで、「色々な化学反応が現場で起きて、それがキャスト・スタッフも含めていい意味で、いい映画ができたのかなという実感はありました」と振り返った。
『万引き家族』は、親の年金を不正受給していた家族が逮捕された事件に着想を得た物語。東京の片隅で暮らす犯罪でつながったある一家の姿を通して、本当の家族の絆を問う。リリー・フランキー、安藤、松岡茉優、樹木希林、子役の城桧吏(じょう・かいり)と佐々木みゆらが出演している。(取材・文:中村好伸)