人気絶頂の岩田剛典、俳優としての覚悟
EXILE / 三代目 J Soul Brothers のパフォーマーとして絶大な人気を誇る岩田剛典。そんな彼がここ数年、俳優業で意欲的なチャレンジを試みている。最新映画『Vision』(6月8日公開)では、独特の演出方法で、極限の表現を俳優に課す河瀬直美監督、前作『去年の冬、きみと別れ』では、徹底した映像にこだわる瀧本智行監督と、“演じる”という意味で正反対とも思えるアプローチを試みる監督と相対し、自身を磨いた。いずれの現場も「相当きつかった」と振り返った岩田だが、俳優としてどんな狙いがあるのか。
岩田は初のタッグとなる河瀬監督に対し、「映画人のなかでも、コアを突き詰めている方。これまでの僕の活動から、まったく接点がない世界の人だろうなと思っていました」と述べつつも「今までの作品も拝見して、『あん』や『光』は特に好きでした。画角や光の使い方が格好良いばかりではなく、社会的弱者や立場の弱い人たちにフォーカスし、世の中に訴えかけるメッセージ性も魅力的」と強い憧れがあったそうだ。
「縁がない」と思っていた岩田だったが、昨年6月に行われた「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2017」のセレモニーで河瀬監督と初対面。そこで俳優に対する熱い思いを吐露し「機会があれば使ってください」と直訴した。
「何かが刺さればいい」という気持ちで会話をしたという岩田に対し、河瀬監督は「奥に秘めるものを持っている人だ」と感じ、本作への出演が決まった。念願の河瀬組、しかも共演者は、永瀬正敏をはじめ実力派のベテラン俳優たち、そして『イングリッシュ・ペイシェント』のフランス人オスカー女優ジュリエット・ビノシュというビッグネームだ。
岩田は「身構えるものはありました」と率直な胸の内を明かしつつ、一方で「現場に入る前に不安は全部捨ててきた」と決死の覚悟で臨んだ。実際に体験する河瀬組は驚くことばかりだったという。「本当にこだわりが強い。光待ちなんて当たり前で、もしタイミングが合わなければ、撮影がなくなってしまうことも。さらに僕が演じた鈴は(台本上に)セリフがなく、しゃべっているのはすべてアドリブ。気がつくとカメラが回っているという感じで、いつ、どこで撮られているかもわからないことが多いんです」。
前作の瀧本組でも過酷な現場を経験した岩田。これまでのアーティストとしての華々しいキャリアを考えると、なぜ、俳優を徹底的に追い込む両監督作品に出演したいと思ったのかという疑問が沸く。
このことについて岩田は「映画というメディアには特に思いが強いんです」と語り出すと「もちろんパブリックイメージに合った商業的な作品も大切だと思いますが、バジェットの大小や、自分のイメージがどうかということよりも、表現者としての経験値という意味で、絶対プラスになると思える作品に取り組んでいきたい。今の実力では、要求されることに100パーセントで打ち返すことはできず、後悔したり反省したりすることは多いです。でもこの1~2年、瀧本監督や河瀬監督、(『ウタモノガタリ-CINEMA FIGHTERS project-』の)石井裕也監督とご一緒したことで、確実に芝居に対して欲も出てきたし、自己評価も厳しくなってきています」と目を輝かせる。
「俳優としての覚悟が感じられます」とぶつけてみると「軽くはないです」と強い視線で答え、持論を展開した。「お芝居ってやればやるほどうまくなると思うんです。もちろん何も考えずに現場に立っていたらダメですが、向上心を持ってやれば、絶対成長できるはず」。特に今回、永瀬やビノシュと対峙して、より強く確信したという。
そのビノシュからは「英語を覚えれば世界の映画スターになれる」とエールを送られた。「すべて捨てて“海外挑戦”という道もあると思いますが、現状の立場もあるので、一人で決められるものでもないですよね」と慎重な姿勢を見せていたが「具体的なことはわかりませんが、映画に国境はないですし、一つの大きな目標としては、いつか海外の作品にも挑戦したいという気持ちはあります」と海外進出にも前向きな姿勢だ。
一方で、「まだまだ国内でもやるべきことはあります」と気を引き締めると「現場にいてもベテランの方々のおかげで成り立っているなと感じることが多く、自分の未熟さに『悔しい』と思うこともある。役柄にもよりますが、自分の芝居でシーンの雰囲気を変えられるような俳優を目指していきたいです」とさらなる飛躍を誓っていた。(取材・文:磯部正和)