W杯の裏側に潜む移民労働者の真実を追ったドキュメンタリー、監督が現状を明かす
2022年にカタールで開催されるFIFAワールドカップのスタジアムや施設建設に携わる労働者たちを描いたドキュメンタリー映画『ザ・ワーカーズ・カップ(原題) / The Workers Cup』について、監督のアダム・ソーベルが、6月7日(現地時間)、ニューヨークの映像博物館で単独インタビューに応じた。
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同作は、カタールW杯に携わる大会社での劣悪な環境の下、アジアやアフリカの貧しい地域からリクルートされてきた移民労働者たちが、唯一の自由ともいえるサッカーの時間を楽しむ姿と共に、差別的な扱いを受ける現状を浮き彫りにした作品。
恋人を追ってカタールに住むことを決めたというソーベル監督。「僕自身がカタールに住む1年前に、カタールが2022年のFIFAワールドカップ開催国に選ばれたんだ。当時は、ニュース番組やドキュメンタリーを製作する会社で働いていたんだけど、多くのメディアから『W杯の施設建設に携わる移民の労働者たちを撮影してくれないか?』と言われてね。でも、カタールには報道の自由はほぼ存在しないから、内密に撮影を始めたんだ。ただその(ニュース番組の)撮影では、(劣悪な環境下に置かれている)労働者を単に犠牲者としてしか描けない。そこで、僕は労働者の人間性を描いて、もっとこの問題を取り上げてもらえるようにドキュメンタリーとして製作することを決めたんだ」と経緯を明かした。
本作には、プロサッカークラブに所属させてやるとだまされてカタールに来た労働者が登場するが、同様の虚偽の説明によってカタールに来た移民労働者は多いという。「これはカタールだけでなく、世界中で起きていることなんだ。それぞれの労働者の母国にリクルートのエージェントが存在していて、そこを介してカタールで働くことになる。もともと母国で貧しい生活をしていた彼らは、だまされたとわかった後も働かなければならないんだ……」と移民労働者たちに選択の余地がない現状を語った。
彼らは毎日12時間近く働き、仕事を変えたり辞めたりすることもできない。ショッピングモールに行くことさえ許されない劣悪な環境下にある。「彼らの運命は、雇用者の手に握られているんだ。もちろん中には、そこで働きたくないと思ったら、帰国を許可してくれる雇用者もいるけど、多くは契約書を提示されて、泣き寝入りさせられるケースが多いんだ」とソーベル監督。カタールでは公共の場で(劣悪な環境に)抗議することさえも違法とされているそうだ。
そんな中、それぞれの会社に存在するサッカーチームを通じて、サッカーに生きる糧を見出だす労働者たちもいるという。「『ザ・ワーカーズ・カップ』と呼ばれる労働者たちのサッカー・トーナメントが存在するんだ。1年目はそれほど規模は大きくなかったけれど、僕らが撮影を開始した2年目からは、実際にカタールのW杯の実行委員会が関わったことで規模が格段に大きくなったね。トーナメントには、W杯の関連会社のサッカーチームが参加できることになっているんだ」。
だが、このトーナメントが行われるようになったのも、海外メディアに劣悪な労働環境が取り上げられたことに対し、カタール政府が良い環境作りを示すために始めたように思えるとソーベル監督は指摘する。「もちろん、実際に労働者の息抜きにはなっているし、悪い部分ばかりではないけれど、カタールW杯のチェスの一こまに利用されただけのようにも思えるんだ」と複雑な心中を吐露した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)