バカップルを描きたい!サーファーと消防士の切ない恋物語の構想明かす湯浅監督
フランスで開催された第42回アヌシー国際アニメーション映画祭で、『夜明け告げるルーのうた』(2017)の湯浅政明監督が現地時間14日、「メイキング・ニュー・ウェーブ!」と題したマスタークラスを開催した。その席上、制作中の新作映像(タイトル未発表)の一部とイメージボードを公開し、ラブストーリーに挑むことを明かした。
『夜明け告げるルーのうた』は昨年の同映画祭長編コンペティション部門でクリスタル賞(グランプリ)を受賞。その監督がアヌシーに凱旋し、創作活動の舞台裏や質疑応答に応じるとあって、280席の会場は若いアニメーターたちの熱気で包まれた。そんな中で披露された新作映像は、奇々怪界なキャラクターが活躍する寓話『夜明け告げるルーのうた』とは対照的で、トレンディードラマのワンシーンを観ているかのような、ヒロインがサーフィンを楽しんだり、海中で男性と美しく戯れる甘い世界だった。
湯浅監督によると、舞台は千葉。サーファーの女の子と消防士が恋に落ちるも突然の悲劇があり、水という別の形になって戻ってきた彼と再び恋に堕ちるという展開だという。湯浅監督は「恋愛している男女は、周囲かからはバカみたいに見えるものだと思うので、バカップルに見えるような内容にしています」と語り、湯浅監督によるラブストーリーという組み合わせでクエスチョンだらけの聴衆の頭を、ますます混乱させた。
共に登壇した湯浅監督の制作会社サイエンスSARUの取締役でプロデューサーのチェ・ウニョンは、司会者から最初にアイデアを聞いた時の感想を問われると「『DEVILMAN crybaby』(NETFLIXで配信中)の後でしたので、あれ? ラブストーリー? しかも人間同士の? と(笑)。ただシンプルなラブストーリーに見えるけど、湯浅さんの面白いファンタジーが入るのでドラマチックになると思います。湯浅さんの良いところは、常にチャレンジをしているところ。スタッフはそこに合わせて頑張るしかない」と語り、聴衆の期待を煽った。
新作は年内に制作し、来年公開を目指すという。そんな精力的に新作を発表し続けている湯浅監督に対して会場から「どのくらいのペースで制作をすれば生活をしていけるのでしょう?」という質問があった。湯浅監督は「僕自身、頑張って働いていますけど、会社を設立してからは年に1本は作った方が良いかなと思っています。いずれは僕じゃない人が監督になって年に1本コンスタンスに作るようにして、僕は働かなくても良いという状態を夢見ています」と語り、会場の笑いを誘った。
また湯浅作品は独創性溢れる世界が特徴的であることから、創造の源を問う質問が相次いだ。湯浅監督は「若い時はイメージするのが得意じゃなくて写実が好きでした。でもそうじゃないものを求められて仕事を続けているうちに、自分が面白いと思うものはアニメーションで表現できることに気付きました。テレビや音楽など日々目にして面白いと思うものを心に留めておく。そういうところから作品が生まれると思っています」。
続けて「よく僕の作品は普通じゃないと言われますけど、一言に普通と言ってもそこに定義はない。自分では普通と思っていてもどこかその人の特徴があって、個々が全部違う。それに気付いていない人が多いと思う。同じ映画や本、音楽に接しても感じることは多分違うはず。僕はその、個々が違うということを考えるのが楽しい」と語り、次代のアニメ界を担う若者たちにエールを送った。
なお、『夜明け告げるルーのうた』は第21 回文化賞メディア芸術祭アニメーション部門で大賞を受賞し、24日まで東京・新国立劇場などで開催中の受賞作品展に参加。また第31回東京国際映画祭(10月25日~11月3日)では特集企画「アニメーション監督 湯浅政明の世界」が行われる。(取材・文:中山治美)