井浦新、大杉漣さんと最初で最後の共演 役者の生き方学ぶ
1972年の沖縄返還の舞台裏を描いた『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』で主演を務めた井浦新が、本作で共演後、今年の2月に亡くなった大杉漣さんへの思いや撮影現場でのエピソードを告白した。意外にも、井浦が大杉さんと共演したのはこれが初めてだった。意外にも、井浦が大杉さんと共演したのはこれが初めてだった。
【動画】井浦新の英語がすごい!『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』予告編
井浦が演じるのは、沖縄返還を巡り、アメリカと日本の間での交渉を任された実在の外交官、千葉一夫さん。そんな彼に対し、沖縄におけるアメリカの基地の重要性を主張するのが、同じ外務省の駐米大使、植田啓三で、この役を大杉さんが演じている。
それぞれの立場から、激しい議論も交わす千葉と植田。劇中には何度かそんな白熱のシーンがあるが、「漣さんはムードメーカーとも言える存在で、現場を明るくしてくださいました。大変なシーンになればなるほど、芝居が面白くなっていくんです」と井浦は振り返る。
撮影現場での忘れがたい瞬間は、大杉さんが長ゼリフを終えたときだったそうで、井浦は次のように述べている「鉛筆を3本横に並べて、その上に湯呑み茶碗を載せながら漣さんが話し続けるのですが、そのシーンを撮り終えてOKが出た瞬間、漣さんは体全体でガッツポーズして『やったー!』と叫びながらスタジオを出て行ったんです。おそらくご自宅で何度も練習されたのだと思いますが、その姿は、まるで子供のように純粋で。芝居でこれだけ喜べるなんて、役者としてあるべき姿を教えられた気がします」
井浦が大杉さんと撮影で過ごした時間は短かったが、本番の合間に交わした会話が今でも忘れられないという「漣さんはこんなことを言っていました。『新(あらた)くん、芝居って正確な答えもないし、ゴールもないのにみんな一生懸命やってる。変な仕事だけど、そういうところが楽しいんだよね。僕なんていつも適当だから、毎回やってることが違うし、勢いで乗り切っちゃうこともあるよ』と……。今思うと、漣さんは僕に『頭の中で考えすぎず、もっと自由に演じればいい』と伝えたかったのかもしれませんね」
大杉さんとの仕事はこの作品だけで終わってしまったが、「一度だけでも一緒に芝居ができて本当に幸運だった」と、うれしさと寂しさの入り交じった表情を浮かべる井浦。演技を突き詰めるあまり、忘れてしまいそうな「喜び」を、これからの役者人生でも追い求めたいと、天国の大杉漣さんに誓っているようだった。(取材・文:斉藤博昭)
映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』は、6月30日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開