『君の名は。』スタジオ最新作の作画に注目!中国文化をリアルに描く技術
大ヒット映画『君の名は。』などを手掛けたコミックス・ウェーブ・フィルムの最新作『詩季織々』(8月4日公開)。現代中国の日常生活や文化、風俗の描写が重要な要素となっている本作で、作画部分を担当した西村貴世と大橋実が制作を振り返った。
湖南省、広州、上海の中国各地を舞台にする本作は、忘れられない思い出を胸に大人になった若者たちを主人公に、過去と現在を交錯させて描く青春アンソロジー。中国では生活の基本とされる「衣食住行」が、3つの短編「小さなファッションショー」「陽だまりの朝食」「上海恋」で表現され、1990年代と2000年代中国のごくごく当たり前の日常が描かれていく。西村は「陽だまりの朝食」の作画監督およびキャラクターデザイン、大橋は「小さなファッションショー」の作画監督、および「陽だまりの朝食」調理シーンの監修&作画監督を担当した。
食をテーマにした「陽だまりの朝食」は、北京で働く主人公のシャオミンが雨の日に故郷の湖南省での日々を思い出していると、祖母が体調を崩したという連絡が入る、という物語。実写作品を手掛けてきたイシャオシン監督がアニメに初挑戦した本作では、監督自身の体験を基に、湖南省では馴染み深い汁ビーフンが思い出の食べ物として登場する。日本では主として焼きビーフンが知られているが、調理シーンの作画を担当した大橋は、取材を重ねて現地の料理をアニメーションで描き出した。
その本領が発揮されているのが、冒頭の場面。通常の場面より多くの絵を用いてスローモーション風に調理の動きを描くことで、目を奪われるほどのみずみずしさと美しさを表現している。「陽だまりの朝食」全体の作画監督を務めた西村から「ここが飛び道具ですよ」と声を掛けられたという大橋は、主役のビーフンの質感を再現するために手書きで作画を行った。3DCGでは再現できないツヤ感や温かみが感じられるものに仕上がっている。
また西村は、イ監督の思い出が詰まった「陽だまりの朝食」について、服装や風俗描写で苦労することも多かったそうで、「中国の方がノスタルジーを感じる風景や食べ物、風俗とは何だろうという思いがありました」と振り返る。食事中の作法や食べ方など、意識しなければつい日本での慣れ親しんだものを描きこんでしまいそうなところだ。そこで大量の資料を提供してもらい、日本人の感覚で決めつけてしまわないように苦慮したという。監督とも可能な限り対話を重ね、設定や参考写真などを基に細部に手を入れていった結果、きわめてリアルな日常風景と人物描写が生まれることとなった。
そして、日常をどのように描くかが重要なのは、CGチーフとして新海誠作品を支え続けてきた竹内良貴が初監督を務める「小さなファッションショー」と、『秒速5センチメートル』で新海監督に憧れを抱いたリ・ハオリンが監督を務めた「上海恋」でも同様。洋服のディテールや中国の学生の格好、雨や雪の日にはどのような姿が一般的なのか。考え始めると疑問は湧きつづけ、細部へのこだわりは増していくばかりだったという。そんな作画へのこだわりにより、年代や地域によって文化が大きく異なる、近くて遠い現代の中国の姿が描きこまれていった。
新海作品などでは背景美術に注目されることが多いが、こうした繊細なディテール描写にも確かな力量を見て取ることができるコミックス・ウェーブ・フィルム作品。その最新作となる『詩季織々』は、日本のアニメーション作品に感銘を受けたリ・ハオリン監督が代表を務める制作会社とのコラボレーションによって生まれたもの。西村は本作について「中国の方にも観てもらって、答え合わせをしたい」と胸を膨らませているという。そのノスタルジックな日常描写を、スクリーンで堪能できる日が待ち遠しい。(編集部・大内啓輔)