今の日本に漂う“不穏な空気”を映し出した『審判』が初日
「変身」「城」などで知られる作家フランツ・カフカの不条理文学を『いちばん美しい夏』などで知られるイギリス人監督ジョン・ウィリアムズが現代の東京を舞台にうつして映画化した『審判』の初日舞台あいさつが30日、渋谷のユーロスペースで行われた。この日は、にわつとむ、常石梨乃、田邉淳一、工藤雄作、早川知子、村田一朗、大宮イチら出演者もともに来場した。
30歳の誕生日に突如、犯罪者に仕立てられた男が次第に追い詰められるさまを描き出した本作について、「今の日本に漂う『不穏な空気』を映し出す映画をつくりたい」と語っていたウィリアムズ監督。得体の知れない巨大な力・システムにコントロールされた理不尽で滑稽な状況が、自分の身に降りかかっているにもかかわらず、主張も反抗もしない主人公の姿が、現代人の姿を暗示している。もともとはウィリアムズ監督が実験的に実施した俳優向けのプロジェクトとして、2015年に演劇作品として上演。その後、原作により忠実な脚本を映画のために書き下ろした作品が本映画化作品となる。
主人公の銀行員・木村を演じるのは、テレビドラマ「相棒」「マッサン」など数々のドラマ、映画、舞台に出演してきた個性派俳優・にわつとむ。彼にとっては初主演作となり、「すいません。もうウルウルきています」と言いながら瞳に涙を浮かべるひと幕も。そして「皆さんのお力添えがあって、今日という日を迎えられまして、本当にありがとうございます。何度も俳優をやめようと思いながら二十数年やってきたんですが、今日ここに立てていることは本当にしあわせです。本当にありがとうございます。人生をかけた映画を楽しんでください」と感無量な様子でコメントすると、会場から大きな拍手を浴びた。
続けて「今回の映画には数百人が裏で働いています」と切り出したウィリアムズ監督は、「この映画はクラウドファンディングで作らせていただきました。役者たちとは2年間くらいコラボしましたし、役者だけでなく、(パペットアーティストの)秋葉よりえさんによる人形劇を織り込んでいます。音楽も7か月くらいかけて作りました。人の力とパッションが入った映画なので、そういう風に観ていただければ」と晴れやかにコメント。そんな渾身(こんしん)の作品を送り出した監督、キャストに向けて、客席からは大きな拍手が鳴り響いた。(取材・文:壬生智裕)
映画『審判』は渋谷のユーロスペースにて公開中