自伝的映画でデビュー!期待の女性監督を直撃
長編デビュー作『悲しみに、こんにちは』(7月21日公開)でスペインのアカデミー賞といわれるゴヤ賞新人監督賞を獲得。第90回アカデミー賞(2018)外国語映画賞のスペイン代表作にも選ばれる快挙を成し遂げた、新星カルラ・シモン監督が初来日を果たし、自伝的映画という同作に込めた思いを語った。
本作は、スペインの大都会バルセロナで母親と暮らしていた少女フリダが、両親の死をきっかけに、カタルーニャの田舎に住んでいる叔父家族の元で暮らすことになり、自らの心の葛藤に向き合う過程を丁寧に描いた作品。シモン監督自身の少女時代の体験が元となっている。
まず、その生い立ちに驚かされるが、彼女にとっては人生において幾度となく語ってきたものだけに、いつの間にか他人事のようになっていたという。「でも、この映画を作ったおかげで、自分があの時何を感じていたのか、周りは何を感じていたのか、自分が覚えていないところで実際に何が起きていたのかなど、改めてリサーチし、見つめ直すことができたんです」。脚本を書く上では、育ての母(叔母)に多くの助言をもらい、育ての父(叔父)は舞台となる家のセットや環境作りに協力してくれたそうだ。
だが、当然ながら自身が演じることはできない。思いが込められた作品だけに主人公となる少女に求めるものも大きくなるのが当然だろう。オーディションは約半年かけて行われ、1,000人近くの少女たちに会ったという。「重視したのは当時の自分たち(監督と従妹)の性格に似ていることでした。そのため、個人的な質問をし、受け答えで判断していきました。また、2人の少女の相性も大切だったので、様々な組み合わせを試し、最終的に彼女たちを選んだんです」。水遊びのシーンが多々出てくる本作において、フリダ役の少女は水が苦手というまさかの事態もあったそうだが、綿密なプロセスを踏んだり、リハーサルを重ねたことで、劇中ではそんなことを全く感じさせない見事な演技を見せている。
少女の心に寄り添い、繊細に捉えた本作を手掛ける上で、最も研究したのは、やはりジャック・ドワイヨン監督の『ポネット』だそうだ。「映画はもちろん、製作過程を追ったドキュメンタリーも観ました。特に子供への演技指導の方法はとても勉強になりました。ほかにも、ヴィクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』、モーリス・ピアラ監督の『裸の幼年時代』、是枝裕和監督の作品など、まるで子供映画のマスタークラスを受講しているのかというくらい、本当にたくさんの作品を観て研究しました」。
もちろん、それは長編デビュー作であり、自伝的作品である本作への強い思いからだが、子供に何かを教えるということをライフワークとしている彼女ならではでもある。「自分が不安定な子供時代を過ごしたこともあり、子供の心理に人一倍興味があるんです。子供にいろいろな形で何かを教えるということが好きで、ボランティアなどもしてきました。映画の勉強で留学していたロンドンでは仲間たちと子供に映画を教えるというプロジェクトを立ち上げ、映画を見せたり、映画の話をしたり、みんなで短編を作ったりということをしてきました。バルセロナに戻ってきたので解散してしまいましたが、今はバルセロナで同様の活動をしています」。
ほかにも、自身の両親をエイズで亡くしていることもあり、エイズに関心を持ってもらうキャンペーンに積極的に参加したりと、映画監督以外にも勢力的に活動しているシモン監督。次回作は再び家族の物語を描くそうで、脚本の執筆も始まっている。「デビュー作で自分がこれだけ認められたということは、とても素晴らしいことだと思いますが、一方で次回作へのプレッシャーもあります。でも、それだけに次回作はいろいろなことが自由にできるんじゃないかという期待もありますね」。
イザベル・コイシェ監督やJ・A・バヨナ監督といったワールドワイドな活躍をみせる監督らを輩出しているスペイン映画界、そして盛り上がる女性監督の活躍。どちらの面においても、注目しておいて損はない存在といえそうだ。(編集部・浅野麗)