斎藤工、シンガポールの巨匠とのタッグ作を語る
現在、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催されているイベント「ジャパン・カッツ!」のオープニングナイトを飾った映画『ラーメン・テー』について、主演の斎藤工が、7月19日(現地時間)、ジャパン・ソサエティーで単独インタビューに応じた。
高崎のラーメン屋で働くマサト(斎藤)は、急死した父の遺品から、幼い頃に亡くなったシンガポール人の母親のレシピが記された日記を見つける。子供の頃の思い出の味・肉料理バクテーを求め、シンガポールへ旅立ったマサトは、シンガポールでグルメを紹介する美樹(松田聖子)の協力を得て、祖母に会うも冷遇されてしまう。そこで、バクテーとラーメンを合わせたオリジナル料理「ラーメン・テー」を作り、家族の絆を取り戻そうとする。シンガポールの巨匠、エリック・クー監督がメガホンを取った。
カンヌ国際映画祭への出品など、アジアから世界で戦うクー監督を「偉大なクリエイター」と称賛する斎藤。「映画『TATSUMI マンガに革命を起こした男』で、僕ら日本人でも知らないことや、日本人が持つ湿度が描かれていて、彼の作品を観るたびに、背筋の伸びる思いがありました。彼からは、ナショナリズム(国家に対する個人の世俗的忠誠心を内容とする感情もしくはイデオロギー)みたいなことを学ばされることが多い気がするんです」。そんなクー監督が、新作で日本人のキャストを探していると聞いて、迷わず飛びついたそうだ。
クー監督とは、日本で松田との本読みの際、初めて会ったそうだが、「ちょうど僕の監督作(『blank13』)が上海で賞を頂いたときだったので、『おめでとう、あの映画は何日で撮ったんだ?』と聞かれたんです。僕が『1週間もかからなかったよ』と答えると、『俺は、そんなお前が好きだ』と言ってくれたんです」。実は、クー監督と斎藤には意外な共通点があった。「クー監督も(現場で)テストをしないんです。彼が確認するのは、感情的な部分は大丈夫だったかということだけで、カットがかかった後も確認しているのは、せりふがきれいにポンポンかみ合ったとかではなく、あくまで感情の部分。自分が監督するときの現場もそうですが、そういう現場では、俳優は四六時中、役柄のまま居るしかないんです。だから、例えば箸がテーブルから落ちても、何が起きても対応できるんです」。
本作では、第2次世界大戦時に日本がシンガポールを占領し、「昭南島(しょうなんとう)」と呼んでいた時期や、虐殺に関して展示したミュージアムについても触れている。「僕にとっては新事実でした。シンガポールはクリーンで、安全だということで、日本からも観光客が多く訪れていて、だいたいマリーナベイ・サンズ辺りをインスタに撮って帰っていきます。けれど、シンガポールの方々は、この歴史についてきちんと教育されていて、その上で、こうやって僕ら日本人に接してくれているということを鑑みると、僕自身は本当に恥ずかしいと思いました」。劇中、ミュージアムを訪れているシーンは、斎藤の素のリアクションだったそうだ。
最後に、今回、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで上映されたことを受け、今作を通してアメリカ人に理解してほしいことを聞くと、「例えば、W杯のアジアのチームは年々、拮抗してきていますが、それは映画の世界でも同じだと思っているんです。もちろん、ハリウッドやボリウッドは、予算や技術面での特性はあるとは思います。ただ、良い映画というものは、最初は他人の人生として外から眺めていても、気がつくとその作品を通して、自分自身を見つめていくような感覚になっていくものだと思います。今作は、そんな自分のルーツに訴えかけるような映画になっているし、アジアの食を通して描いている部分で、アメリカの方にも十分味わっていただけると思います」と締めくくった。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)