是枝裕和監督、樹木希林の凄さ明かす 韓国記者会見で
是枝裕和監督のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『万引き家族』(上映中)が、香港、台湾などアジア各国で劇場公開され、7月26日より韓国で公開された。全国約100スクリーン強と小規模ながら、公開4日目(7月29日)で観客動員数3万8,582人、興行収入3億8,176万9,600ウォン(約3,800万円)と好調な滑り出しを見せた。現在、日仏合作による新作『La Verite』(仮題)の撮影準備で多忙な是枝監督が来韓し、30日午前にソウル市内の映画館でマスコミ向け記者会見を行った(数字はKOBIS(映画館入場券統合電算網)調べ)。
儒教文化が根付く韓国では日本以上に家族の絆が強いといわれており、映画のように血縁のない他人同士が共同生活を営み、家族を形成していることに、韓国の観客は少なからず衝撃を受けている様子だ。是枝は『誰も知らない』(2004)、『そして父になる』(2013)などの作品を通じて家族の在り方について提示し、世界から共感を得ている。これについて是枝は「どんな感情が国境を超えるのかは意識していません。これまで、スペイン、フランス、カナダ、そして韓国なと多くの皆さんに観ていただきましたが、自分にとって大切なテーマを掘り下げていけば、言語や文化とは関係なく理解してもらえると確信しました」と、あえて観客を意識せず自身の価値観を映画に反映させたことを強調した。
核家族化が進む現代社会において、あえて大家族を描こうとする意図を記者から問われると「何らかにアンチテーゼを示し、告発をするために家族を描いているわけではありません」としながら、年金不正受給の事件が映画のモチーフとなったことを説明。キャスティングについては「母親と息子役には樹木希林さんとリリー・フランキーさんしかいないと僕の中で決めていました」と是枝作品の常連俳優の名を挙げた。
樹木の出演シーンについて、「海辺ではしゃぐ家族のシーンがクランクインだったのですが、彼らを見守る樹木さんが、台本にはないのですが『ありがとうございました』と口を動かしているのを編集のときに気が付きました。見透かしたようにサラッと投げかけているのが樹木さんの凄さで、その『ありがとうございました』に至るよう台本を修正した」と裏側を明かす是枝監督。「彼女と真剣勝負のやりとりをすることは監督としてありがたい」とあらためて樹木に感謝を述べていた。
次回作で、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュらを迎えた日仏合作に取り組む是枝監督は、「韓国にも魅力的な役者がたくさんいます。遠くならない将来、機会に恵まれればまたこの場所に戻ってきたい」と韓国人俳優とのコラボにも意欲を見せていた。(取材・文:土田真樹)