村上虹郎、震災前の熊本での撮影を振り返る 短編『春なれや』
俳優の村上虹郎が30日、渋谷のユーロライブで行われた「映画監督外山文治短編作品集」のアンコール上映&スペシャルトークに女優の吉行和子とともに登壇。2016年4月に発生した熊本地震前に、熊本で撮影されたという作品を振り返り「すごく美しい、刹那のような時間でした」と語った。
吉行主演の映画『燦燦 -さんさん-』を手がけた新鋭・外山文治監督がメガホンを取った3本の短編がブルーレイとDVD化されることを記念して行われた本上映会。この日は芳根京子主演の『わさび』、老老介護の現状を描いた『此の岸のこと』、そして村上、吉行主演の『春なれや』の3本が上映された。この3本は昨年の8月に公開され、ユーロスペースの2週間レイトショー観客動員数歴代1位を記録。吉行は、「その記録がまだ破られていないというのはいいわね。そんな風に観てもらえるなんて本当にうれしいです。外山監督の力だと思います」と誇らしげな表情を見せた。
本作の撮影は震災直前となる2016年春、熊本県菊池市の名所“万本桜”で行われた。くしくも本作には、震災前の熊本の景色が映し出されることとなった。村上は、「あの景色は覚えていますね。自転車のシーンに鳥居があったんですが、あの鳥居が地震で壊れてしまったんです。あれは直ったのかな……。すごく美しい、刹那のような時間でした。本当に(地震があったのが撮影から)1週間から10日くらい後だったので」と振り返った。
今回、初共演となった村上について吉岡は、「みずみずしかったんですよ、この人は。忘れられないのは自転車の二人乗りをしたこと。人生初でした。テストもなく、ぶっつけ本番でいくんで、この人(村上)を信じるしかなかった。どこまで走るのかも分からないし、いつ止まるのかしらと祈るような気持ちで。本当に信じるしかなかった。あんなに男の人を信じたのは初めて」と述懐し、会場を沸かせた。自転車をこいでいた村上自身もプレッシャーを感じていたというが、出来上がった映像を観て「僕というよりも吉行さんが楽しそうに乗っていらしたのが印象的でしたね」と感じたという。
吉行と村上が出演する『春なれや』は、「ソメイヨシノは60年咲くことができない」といううわさを確かめるために、老人ホームを抜け出した女性が、青年と一緒に廃校となった木造校舎に足を運ぶさまを描き出す人間ドラマ。同作は外山監督自身が、製作、宣伝なども個人で行い、劇場公開、そしてソフト化までこぎつけた。「歩みが遅いですよね」と笑ってみせた外山監督は「一歩一歩、手作りで映画を作ってきて。時代からは逆行していますけど、丁寧に作ったら、流行とは関係ない作品ができるということが分かったので、今後も丁寧な作品を作り続けたいと思います」と決意のコメント。村上も「この作品は監督が時間をかけて、労力をかけて作った作品です。ぜひ拡散していただければ」と会場に呼びかけた。(取材・文:壬生智裕)
『わさび/春なれや』DVD・ブルーレイは8月2日より発売開始