『この世界の片隅に』終戦の日に上映 のん&片渕須直監督、熱い思い
映画『この世界の片隅に』で主人公・すずの声を務めたのんと、片渕須直監督が、終戦の日である8月15日、都内で行なわれた夏の再上映舞台あいさつに出席。公開から約1年9か月が過ぎるなか、初日から642日間、一日も途切れることなく劇場で作品が上映されている現状や、この日に再上映された意義について熱く語った。
本作は、こうの史代の同名漫画をアニメーション映画化。2016年11月12日の公開時、63館からスタートしたが、口コミで評判が広がり、累計で400館以上の劇場で公開。この夏も、都内・テアトル新宿をはじめ27劇場で再上映が行なわれている。
片渕監督は、「クラウドファンディングでたくさんの支援をお願いしなければ作り始められなかった映画」と、製作当時を振り返ると、今日に至ったのは作品を応援してくれるファンと、常に作品を上映し続けてくれる劇場の方々のおかげであると感謝を述べる。
また終戦の日に再上映されたことについて問われた片渕監督は、企画段階では戦争を描いた作品だけに「8月に映画公開すべき」という声を多く受けたという事実を明かすと「8月だから戦争を思い出すのか、それ以外だと思い出さなくてもいいのか」という思いに駆られたという。
そのため、あえて8月ではなく、物語が始まる11月に公開を決め、夏以外にも戦争のことを考えてもらえる機会を作ろうと思ったという。一方で、約1年9か月にわたって劇場での上映が続いていることで、8月にも映画に触れる人がいることについて「原爆投下や終戦があった月なので、すずさんを通して、当時の生活やいろいろな人の顔を思い出すきっかけとなる役目を担わせてもらえたら」とこの時期に上映される意義を述べた。
さらに、片渕監督は、終戦の日から8月22日の全面的な戦争の停戦までの期間に触れ「戦争というものは非日常ですが、その後に起こる兵隊さんの給料や退職金、戦地から帰国する足の手配などを考えなくてはいけない状況でした。そんな世界の片隅に、すずさんがいたんです」と作品の解釈を加える。
のんが声を吹き込んだすずも、劇中で終戦を体験する。普段はおっとりとしているすずが、玉音放送を聞き、畑で泣き伏すシーンには、ある種の衝撃を覚えるが、のんは最初、自身が演じてきたすずの性格からすると意外な行動に思えたそうだ。しかし片渕監督から、終戦の日に、すずのように自分でも説明がつかずに涙が溢れ出てきた人がたくさんいたことを聞くと「すずさんの中に押し込めていた、さまざまな怒りが終戦の日に逆流してきたんだ」と理解し、演じたことを明かした。
片渕監督は、公開初日よりも多くのマスコミが詰め掛けたことに驚いた表情を見せると「この映画は、すずさんだけではなく、彼女の周囲にいる人々や景色、空間などの当時が描かれている作品。映画館のスクリーンならではの気づきがあるので、一日でも長く上映が続いてほしい」と呼びかけていた。(磯部正和)