JK役の次は5歳児に挑戦!変幻自在の土居志央梨
行定勲監督の映画『リバーズ・エッジ』(2017)で、二階堂ふみ演じるハルナの友人・小山ルミ役で体当たりの演技を見せた女優・土居志央梨が、8月18日~26日に上演する舞台「グレーテルとヘンゼル」(神奈川・KAAT神奈川芸術劇場)で商業演劇初主演を飾る。『リバーズ・エッジ』では24歳にして女子高生を演じたが、今回は5歳児だそうで、土居は「女子高生でギリギリと思っていたのに、まさか子どもとは。ビックリしました(笑)」と新たな挑戦に胸を膨らませている。
土居は京都造形芸術大学在学中に高橋伴明監督の映画『赤い玉、』(2015)に出演し、奥田瑛二演じる大学教授に迫る女子大生を、『リバーズ・エッジ』ではクスリに援助交際と危ない橋を渡るルミを、岡崎京子の原作を超える大胆な演技でインパクト残した。26歳とは思えぬ落ち着きと妖艶さを持ち、必要とあれば裸身になることもいとわない。土居自身は「“フレッシュさがない”というのが悩み」と笑うが、本格派女優の趣を感じる新鋭だ。
だが今回の舞台では、その持ち味を封印する。グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」から着想を得た同作は、1歳違いの弟ヘンゼルが生まれたことから全てが弟優先となり、姉グレーテルに「なぜ“グレーテルとヘンゼル”じゃないの?」という嫉妬が芽生えたことから始まる姉弟の愛憎劇。細田守監督も『未来のミライ』で描いた普遍的な問題がテーマだ。
実生活でも弟がいる土居は「グレーテルの気持ちはよーく分かります(笑)。親が転勤族だったので、必然的に姉であるわたしが“しっかりしなければ”と自分に言い聞かせてきた部分もありますが」と語り、役に共鳴するという。ただ「設定は5歳ですが、舞台上で起こる出来事を回想しているような部分もあり、もしかしたら彼らはものすごく大人かもしれないし、子どもかもしれない。観客の想像を掻き立てるような作りになっています」と説明する。
二人芝居で、ヘンゼル役の小日向星一ともども、オーディションで選ばれた。同作は世界各地で子どもに向けた作品を上演し続けているカナダ・モントリオールの劇団ル・カルーセルの代表作で、今回の演出も同劇団のジェルヴェ・ゴドロが務める。彼は日本語が分からない分、土居たちが発する声で内面を見抜き、一行一句、細かい指導が飛ぶという。日頃、台本にはあまり注意を書き込まないという土居だが、今回に限っては「書かないと覚えられない」ということで、すでに台本は真っ黒になっているという。
土居は「“ここはもう少し悲しさが欲しい”とか、“声と感情が直結していない”とか、“今のは泣き言になっている”とか無茶苦茶言われて、はぁぁ……と(苦笑)。もともとオペラ歌手をしていた方なので“舞台を引っ張っていくのは声だから”という考えがあるようです。ここまで自分の声を意識して芝居をしたことがなかったので、本当にいろいろと教えてくださり、ありがたいと思っています」と語る。
もっとも土居も、3歳から約15年間バレエ一筋で歩み、本公演にも立つなどステージ経験は豊富。高校卒業を前に「このままバレエでプロになると決意したら、バレエ以外の人生を知らずに終わるのではないかと怖くなった」と京都造形芸術大学芸術学部映画学科俳優コースに進学したという経緯がある。バレエを辞めたことに後悔は? と尋ねると「大丈夫です!」ときっぱり。新たな世界と人との出会いを楽しもうとする気持ちが芝居にも表れているからこそ、観客を魅了するに違いない。(取材・文:中山治美)
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