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ピンク映画は今も新人監督の登竜門!?

『新橋探偵物語』より
『新橋探偵物語』より - (C)OP PICTURES

 映画『はめられて Road to Love』(2016)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017オフシアター・コンペティション部門で北海道知事賞を受賞した横山翔一監督が、『新橋探偵物語』(R18+版タイトルは『絶倫探偵 巨乳を追え!』)で長編監督デビューをする。同作は大蔵映画の新人監督発掘プロジェクトで製作されたもの。ピンク映画は日本映画斜陽時代を支え、新人監督の登竜門と言われてきたが、その伝統は今も生きている。

 1947年創業の大蔵映画は、1962年に日本初のピンク映画『肉体の市場』を配給したことで知られる。今も「OP PICTURES」の名義でピンク映画36作品+男性同性愛者向け2作品の年間計38作品を製作・劇場公開しており、根強いファンを持つ。だが、さらに新たな人材の発掘と業界全体の活性化を目的に、創業70周年を迎えた昨年、「OP PICTURES 新人監督発掘プロジェクト」を立ち上げた。

 それは、横山監督が出会うべくして出会ったプロジェクトだった。横山監督は映像会社を経て、映画美学校に入学。在学中に制作した短編『たちんぼ』(2014)も『はめられて Road to Love』も、映像会社のあった東京・新橋を舞台に、風俗産業を盛り込んだラブコメディーだ。横山監督は「新橋には大企業もある一方で、女性が“立ちんぼ”をしている。そっちで稼いだ金がこっちへ……という流れが面白い」と言う。

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横山翔一
『新橋探偵物語』で長編監督デビューをする横山翔一監督

 同プロジェクトの存在を知ったのは、『はめられて Road to Love』を鑑賞したピンク映画界の巨匠・池島ゆたか監督から「ピンク映画を撮ってみたら?」と勧められたのがきっかけだという。早速、ピンク映画について調べていたところプロジェクト募集に行き着いた。募集要項に書かれていたのは“未発表のオリジナル作品で70分程度の企画案”。以前から長編を撮りたいと思っていた横山監督に迷いはなかったという。

 大蔵映画の斎藤豪計氏は、横山監督の受賞理由について「企画自体が面白くパワーがありました。何より過去作の映像に力があり、内容も審査員の琴線に触れるものでした。この監督が撮るピンク映画をぜひ観てみたいと思い優秀賞に選びました」と語る。

 『新橋探偵物語』もタイトル通り、新橋が舞台だ。アダルトビデオの撮影中に女優の誘拐事件が勃発。彼女に一目惚れした売れない俳優ハテナシタマオは、伝説の“セックス探偵”に弟子入りし、事件を追う。好きな作品『怪猫トルコ風呂』(1975)のようにエロを明るくポップに。そこに以前から挑んでみたかった探偵モノの要素を取り入れたという。

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 脚本は、『はめられて Road to Love』に続いて劇団ユニットろりえの奥山雄太が手がけた。出演陣には伊神忠聡近藤善揮後藤剛範らが名を連ねており、横山作品を知る人なら一層楽しめる内容となっている。横山監督は「起用している役者たちは、大学時代に創作活動を一緒に行っていた当時の仲間が中心です。僕たちは劇団大人計画に影響を受けた世代で、皆で上に上がっていけたらという思いがあります」と言う。

 もっとも、撮影期間4日で、製作費もピンク映画標準価格(R15+版製作費分は上乗せ)と、決して恵まれたものではない。加えて観客層を広げる目的で2015年にスタートした「OP PICTURES+フェス2018」用に、従来のR18+作品とは別にR15+バージョンも用意する必要がある。これが案外難しく、横山監督も「さじ加減が分からなかった。R15+は腰から下を写してはダメなので、R18+は全身を写してエロ中心でまとめたのですが……まだまだ勉強中です」。

 しかし、若松孝二滝田洋二郎周防正行瀬々敬久廣木隆一ら巨匠たちが、お色気があれば何でもOKというピンク映画で創造の翼を羽ばたかせつつ腕を磨いたように、横山監督も「企画をゼロからやらせてもらえたのはありがたかったです。しかも僕は映像製作会社時代にCMやPVなども作っていたので、限られた予算と期限と枠があった方が面白い」と語り、肌に合っているようだ。

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 すでに『新橋探偵物語』は、大蔵映画側の提案でシリーズ化を視野に入れた展開になっている。さらに横山監督の夢は大きく膨らんでいるようで「ピンク映画版『アベンジャーズ』を作りたいんですよねぇ。すでにDr.ソープランドというキャラクターを考えています」と声を弾ませる。思わず、「大蔵映画に発掘されて良かったですね」と話を振ると、「はい、(自分を生かせる場所は)大蔵さんだったんだなぁー」と感慨深げに笑った。

 大蔵映画では今年も「OP PICTURES 新人監督発掘プロジェクト2018」を実施中(9月30日締め切り)。斎藤氏は「よく映画関係者から“才能のある若い人たちの活躍の場が少ない”という声を聞きますし、実際、『あの監督を使ってみない?』という声もかけられます。われわれは長年、日本映画界の下支えをしてきたという意識がありますので、ここから若い才能を発掘し、どんどん育っていっていただければと思っています」とプロジェクトへの思いを語った。(取材・文:中山治美)

『絶倫探偵 巨乳を追え!』(R18+)は8月23日まで、東京・上野オークラ劇場にて公開中

『新橋探偵物語』(R15+)が上映される「OP PICTURES+フェス2018」は8月25日~9月14日、東京・テアトル新宿にて開催

「OP PICTURES 新人監督発掘プロジェクト2018」募集要項
http://www.okura-movie.co.jp/op_pictures_plus/overview.pdf

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