瑛太、大久保利通と共にストイックに生きた1年
明治新政府が樹立して武士の時代が幕を閉じようとするなか、盟友として維新を乗り切ってきた西郷隆盛と大久保利通の関係にも大きな溝が生じ始める……。いよいよクライマックスを迎えようとしている大河ドラマ「西郷どん」で、約1年3か月大久保利通として激動の時代を生きていた瑛太が、熱い思いを語った。
1年以上かけて大久保を演じてきた瑛太は「正直、撮影に行く足が重くなる時もあり辛く、大久保のように胃痛になるぐらい精神的にきつい役柄でした」と率直な感想を述べる。その理由を「大久保は、いろいろな種を撒いてもすぐに花が咲かない」という言葉で表現する。希望を持って生活していても報われないし、それを発散するだけの場もない。常に消化不良を抱えながらの芝居だったというのだ。
そこには瑛太の考える大久保へのこだわりがあった。それは「ある種の孤独」だという。「今回の撮影は控室にこもりがちで、ほぼ雑談もしませんでした。大久保のなかには、絶対に孤独があると感じました。それは役作りをしようということではなく、自然にそうなっていったんです」。
そんな大久保だが、ここでも瑛太は「明治篇になり、溜まっていた毒素が腹の底から湧き出てくるが人間くささを出しつつも、ダークヒーローにしたくはない」という葛藤にさいなまれた。そこには、大久保の考える誠実さ、強さ、正しさに向かって突き進む決断力を肯定的に捉えたいという思いにプラスし、鈴木亮平演じる西郷と意見が食い違ってしまっても、西郷を「死ぬまで好きという気持ち」があるからだという。
とは言いつつも、西郷と大久保は、完全に袂を分かち、互いに悲劇的な運命をたどる。本作の最大のクライマックスと言えるのが、この二人の決別のシーンなのかもしれない。瑛太は台本を読んだときから「非常に楽しみ」と胸を躍らせていたという。
「亮平くんとは撮影前に『どこまでやろうか?』と相談はしませんでした。台本を読んで方向性みたいなものを感じたことはありますが、実際対峙し、現場でこみ上げてきたものを素直に表現する。それが台本の解釈と真逆になるかもしれないが、そこを互いに受け入れることが、亮平くんとならできるんです」。
実際、第43話で二人が対峙するシーンで、瑛太は台本の解釈とは真逆の感情が溢れ出てきたという。「見てくださっている方が僕の演技にどう感じるかは正直わからないけれど、映し出されているのは、僕が感じた大久保の感情なんです」。
瑛太は、過去にも大河ドラマ出演はあるが、改めてスタッフやキャストのこだわりに舌を巻いたという。
「撮影初日から8時間待ちですからね(笑)。それぐらいワンカットに時間と愛情をかけてやるんです。正直苦しいこともありますが、鈴木亮平くんという人間を毎日見続けられることは大きなモチベーションになりました。“吉之助さあ”の機微や呼吸、セリフの吐き方、目の動かし方など、感受性が敏感になるんです。そんなことを感じていると、長いと思っていた撮影期間も『もう終わってしまうんだ』と感じられました」。
「この芝居で良かったのかな」と自問自答し続ける日々が1年以上続いたという瑛太。街中で老若男女問わずいろいろな方から声をかけられ、大河ドラマの感想を話してもらうのがとても励みになったそう。これこそがまさに「大河ドラマなんだな」と喜びを実感する瞬間。明治篇の彼の演技も、きっと多くの人に「長い感想」をもたらすほど熱を帯びているに違いない。(取材・文:磯部正和)