S・マックィーン監督、新作『妻たちの落とし前』への思いを出演女優らと語る
アカデミー賞作品賞を受賞した映画『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックィーン監督が、新作『妻たちの落とし前』(2019年4月 日本公開)について、女優のヴィオラ・デイヴィス、ミシェル・ロドリゲス、エリザベス・デビッキらとともに、11月12日(現地時間)、ニューヨークのAOL開催イベントで語った。
本作は、イギリスの小説家リンダ・ラ・プラントが手掛けた1980年代のテレビミニシリーズを、マックィーン監督が『ゴーン・ガール』の原作者にして脚本家でもあるギリアン・フリンと共に脚色したクライムサスペンス映画。舞台はシカゴ、ハリー(リーアム・ニーソン)率いる4人の強盗犯が、警察と銃撃戦になり、車が大破し死亡してしまう。ところがその強盗犯たちの妻ヴェロニカ、リンダ、アリス(ヴィオラ、ミシェル、エリザベス)たちが、金の行方を調査する過程で、思いがけない真実を発見し、真の黒幕に立ち向かっていく。
1980年代のBBCミニシリーズ「ウィドウズ(原題)/ Widows」を、なぜ今、映画化したのかとの質問にマックィーン監督は、「まず、アーティストとして真実を追求したかったからだね。1983年のテレビミニシリーズが、現代のアメリカを反映しているように思えるのは、あの番組が真実を追求していたからだ。リンダ・ラ・プラントによって書かれたあのドラマは、いかに人々が(色眼鏡なしで)お互いを考察しているかを描いていて、当時13歳だった僕に真実を語りかけてくれた。そのときから、僕はあの番組を映画化したかったんだ。それは、女性を描いたパワフルなドラマに思えたからで、それまで女性は姿や様相で判断されたり、あくまで男の対として描かれたりしていたから、1980年代に(白人の多かった)イギリスで黒人の子供として育った僕には、(姿や様相だけで判断されてしまう部分に)共感が持てたんだ」と長年の思いを語った。
ミシェルは演じたリンダについて、「彼女は市街地の貧困層で暮らしながらも、無償の愛を注いでいた女性だったけれど、残酷な世界によって心を踏みつけられてしまうの。わたしは、リンダのように16、17歳で妊娠してしまい、相手の男もそばにいなくて、結局自分で子供を育ててしまうような人たちを、周り(母親や近所)でずっと見てきたわ」と説明し、自身が世界中の人々にこれまで見せたくなかった(繊細な)部分があったキャラクターだけに難しかったと明かした。
また、自身については「わたしは男勝りになることで、この映画業界を生き抜いてきたの。映画の中でも、ずっとその男勝りな部分を表現してきたし、(映画界で)独立して、人から尊敬を抱いてもらえるようになるには、『男のように振る舞え』と、ずっと言われてきたからでもあったわ。男勝りになれたから、スラム街を抜け出せたし、自由にもなれた。でもその間、真の力となる女性としての美しさ、優しさを無視してきたの。だから、そんな女性的な部分をこの役を通して、自分の中で再発見した感じだったわ」と赤裸々に語った。
マックィーン監督とのタッグについてエリザベスは、「(彼の演出は)毎日、女優として崖の端っこに立たされ、ちゃんと下に着地できるかわからないけれど、誰かが必ず下で受け止めてくれるから、ジャンプできているという感じなの。だから安全なんだけれど、ジャンプするときは、そのシーンごとにすべてをかけて飛ぶ感じよ。安心できるのは、モニターの後ろで、女優たちの行っていることを、ちゃんとスティーヴが把握しているからなの。そんなやり方は、女優としてとても開放された感じだったわ」と振り返った。
一方ヴィオラは「スティーヴのこれまでのプロジェクトを通して、彼が既成概念を打破してきたのを見てきたわ。もし、今作が他の監督の手にかかっていたら、このような作品は出来上がらなかったし、おそらく多少どこかで妥協していたかもしれないと思うの。でも彼は、アーティストとして素晴らしい度胸を持っている。いくつかのカツラを用意していたわたしに、自分の自然のヘアーのままで出演するように勇気付けてくれたのよ」と明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)