オスカー前哨戦はこう見よ!予想の参考になる映画賞とは?
本年度の映画賞レースも、中盤に入りかけた。すでに受賞結果が発表されているのは、ナショナル・ボード・オブ・レビュー、AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)、ゴッサム・インディペンデント映画賞、各都市の批評家協会賞など。このほか、ゴールデン・グローブ、全米映画俳優組合(SAG)、インディペンデント・スピリットなどが、ノミネーションを発表している。だが、これはあくまで現段階の様子。これらの結果がそのままオスカーにつながるとは限らない。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
【動画】ナショナル・ボード・オブ・レビューが選んだベスト作品『グリーンブック』
たとえばナショナル・ボード・オブ・レビューが選んだベスト作品は『グリーンブック』だったが、この賞がオスカーの作品賞と一致したことは、2009年の『スラムドッグ$ミリオネア』以降、一度もないのだ。インディペンデント・スピリットとゴッサムはインディーズ映画が対象で、製作予算が基準の一つ。オスカーには資格があってもこちらには資格がないという作品が多数あり、昨年度のオスカー受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』も対象外だった。
またロサンゼルスとニューヨーク批評家グループは、共に『ROMA/ローマ』をベスト作品に選んだが、ニューヨークがオスカーと同じ作品に賞を与えたのは過去20年で4回だけ。そもそも『ROMA/ローマ』はスペイン語映画で、外国語作品がオスカーで作品賞を取ったことは、過去に一度もないのである。ちなみに、ゴールデン・グローブ賞の作品部門は英語作品のみが対象のため、『ROMA/ローマ』は外国映画部門にだけノミネートされている。
もっと重要なことに、これらの賞は、オスカーと投票者が全くかぶらない。オスカー予測の上でもっと良い指針になるのは、投票者の中にアカデミー会員も含まれる賞だ。先に述べたSAGや、全米監督組合(DGA)、全米プロデューサー組合(PGA)の賞である。ことさらPGAの“打率”が高く、この10年でPGAとオスカー作品賞が違ったのは2回だけ。『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』の大接戦だった昨年も、PGAは見事に『シェイプ・オブ・ウォーター』を選んでいた。
DGAを受賞した監督も、ほぼ確実にオスカー監督賞を受賞する。一方で全米脚本家組合(WGA)の賞は、資格に関するルールが独特であるため、あまり当てにならない。そして、微妙なのはSAGだ。
俳優はアカデミー会員で最も多い人数を占めることから、SAGの結果は重要視される。実際、この23年でSAGのキャスト部門(俳優賞のためSAGには作品部門はないが、キャスト部門がそれに当たる)にノミネートされなかったのにもかかわらず、オスカー作品賞を取ってみせたのは、『ブレイブハート』と昨年の『シェイプ・オブ・ウォーター』の2本だけだ。
となると、やはりこのノミネーションは注目に値するのだが、今年の候補作の顔ぶれは、かなり意外なのである。例えば『クレイジー・リッチ!』や『ボヘミアン・ラプソディ』のように、ヒットはしたがオスカーには遠いと思われるものが入っているかと思えば、『バイス』『ビール・ストリートの恋人たち』『ROMA/ローマ』『女王陛下のお気に入り』などの有力作が抜けている。
『女王陛下のお気に入り』は3人の女優(オリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズ、エマ・ストーン)が圧倒的に中心で、“キャスト”というには人数が少なすぎたのが理由かと思われるし(以前には、二人芝居と呼んでもいい『ラ・ラ・ランド』も候補入りを逃した)、『ROMA/ローマ』のキャストはメキシコの素人俳優で、プロの俳優たちの組合としては、外国の素人俳優に貴重な賞をあげたくないと思ったのかもしれない。しかし、『バイス』と『ビール・ストリートの恋人たち』には、明確な言い訳がない。
要するに、今の段階ではまだわからないという、最初の話に戻るわけである。チャンスは、今名前を挙げた全ての作品にあるのだ。これから2か月弱の間、これらの作品は激しいキャンペーンを繰り広げることだろう。その結果、勢いを増していくのは、果たしてどの作品だろうか?