『ウィンターズ・ボーン』デブラ・グラニック監督、新作を語る
映画『ウィンターズ・ボーン』で無名だったジェニファー・ローレンスを一躍スターダムに押し上げたデブラ・グラニック監督が、2月8日(現地時間)ニューヨークのJCCマンハッタンのイベント開催されたQ&Aで、新作『足跡はかき消して』と『ウィンターズ・ボーン』について語った。
『足跡はかき消して』は、社会から離れオレゴン州ポートランドの国立自然保護区の山奥でテント暮らしをする父娘を描いたドラマ。退役軍人のウィル(ベン・フォスター)と13歳の娘トム(トーマシン・マッケンジー)は、ある日、公園内でパトロール隊員に捕まり、強制的にソーシャルサービスを受けることに。借家で新たな生活を始めた父と娘は、次第にすれ違いが生じ始める。ピーター・ロックの著書「マイ・アバンドンメント(原題) / My Abandonment」をグラニック監督が映画化した。
映画として原作を脚色するときの考え方について、グラニック監督は「原作が時代物や歴史上の作品ならば、それほどプレッシャーを感じずに脚色できるけれど、現代の作品ならば、原作のストーリー自体がロードマップ(道路地図)だと思っていて、原作者の創造の世界に連動した感覚を感じるの。だから初期の段階から、わたし自身が原作者と内容について合意していなければいけないと思うわ。それと、大抵の物語は、映画化の際にロケーションや世界観が大幅に変えられてしまうということを原作者は知らなければならないわね」と映画化の難しさを語った。
実際、『足跡はかき消して』は原作とはエンディングの内容が違うそうだが、その経緯については「何度も脚本を改稿して、できる限りピーターが執筆した原作に近いものに仕上げようとしていたわ。でも、原作で起きる設定がわたしには理解できなかったの。だから、その点に関してピーターと話し合ったわ。ピーターは、『その出来事に至る以前のストーリー構成に関連しているからだ』と説明してくれたわ。それは理にかなっていて、ピーターが描いた世界観は美しいものだと思ったの。でも、一方ですごく冷たい世界に思えたわ。そこで、わたしは新たなアイデアを提案したのよ」と明かした。
ダニエル・ウッドレルの原作「ウィンターズ・ボーン」の映画化については「自分が住む地域に関して情熱をもって描いていることが理解できたの。舞台のミズーリ州のオザーク高原は、独特なアクセントがあったり、わたしが過ごしていた東海岸の生活とは全く異なっていたわ。それにオザーク高原の映像とその土地の経済状況にも興味があったの。つまり、全く自分が知ることのできない土地に惹かれていたということね」と製作経緯を明かした。そして、それは新作『足跡はかき消して』にも共通して言えるという。「オレゴン州ポートランドの国立自然保護区は、北米で最も美しい土地の一つで、美しく保たれている土地に敬意さえ抱いているわ。でも、そんな広大な森林を、ナショナル・ジオグラフィックの映像とは異なるように、いかに描くかを考えていたの」
これまで原作を基にした作品の映画化を断られたことはないというグラニック監督。「とは言っても、まだそれほど多くの映画を撮っていないからでもあるけれど(笑)。これから手掛ける2作品も問題なく原作者の許可を得たわ。実は、原作者とフィルムメーカーの間には、弁護士などの仲介者がいて、直接、原作者から断られることはないの。原作者はフィルムメーカーの過去の作品を鑑賞できるから、その作品を通して信頼してくれれば問題ないわ。それに、原作が出版されてから5、6年以上もたてば、ほとんどの人がその原作には興味を持っていないから、そんなときに原作者に連絡を入れたら、全く予想もしなかったこととして、映画化することを受け入れてくれることも多いと思うのよ」と彼女なりの見解を語った。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)