森山未來、大河の語りに「モテキ」影響
大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(NHK総合・日曜20時~ほか)で、「語り」を担当するとともに、“落語の神様”古今亭志ん生(ビートたけし)の若かりし頃・美濃部孝蔵(みのべ・こうぞう)を演じる森山未來。見せ場となる初高座を迎える第13回(3月31日放送)を前に、孝蔵役、そして語りへのアプローチや、ドラマ「モテキ」の大根仁監督と大河ドラマで再タッグを組むことになった経緯を明かした。
連続テレビ小説「あまちゃん」(2013)の宮藤官九郎脚本により、オリンピックをテーマに、日本人選手が初参加した1912年のストックホルム大会から1964年の東京オリンピック実現までを、中村勘九郎、阿部サダヲのダブル主演で描く本作。森山演じる孝蔵は、10歳から酒と博打に手を出し、家を勘当されて、根無し草のような暮らしを送っていた人物。だが、落語との出会いが彼の人生を動かしていく。
伝説の落語家・橘家円喬(たちばなや・えんきょう/松尾スズキ)に弟子入りし、のちに大成することになる孝蔵を演じるにあたって、文献を探し、下調べを入念に行ったという森山。だが「古今亭志ん生の資料は大名人となった晩年がほとんど。若い頃については、志ん生自身が語っているんですが、彼は噺家だから話が盛られているんです。だから推察するしかなくて」。そんなジレンマを吹っ切るきっかけになったのはビートたけしの演技だった。「もう、さっぱりわからなくなって、ビートたけしさんが志ん生をどう演じているのか、スタジオに拝見しに行ったんです。そうしたらビジュアルも含め、たけしさんはたけしさんのままでやられていて。それを見て、ああそうだ、もういいやと」
「(孝蔵が育った)江戸前言葉で話そうとしても、僕はやっぱりメンタルが関西人(神戸出身)なので、生き方のかたちが違うし、自分には江戸前の感じは出せないと気にしていた」と江戸前言葉にも悩んでいた森山は、主人公と同じ境遇に身を置いて役作りをした映画『苦役列車』(2012年公開)のように、孝蔵のいた浅草に住むことも考えたという。しかし、今回はそのアプローチを取ることはなかった。
「落語指導を受けた古今亭菊之丞(ここんてい・きくのじょう)さんとお話したり、たけしさんを見て、江戸前へのこだわりよりも、どうしたら浅草の風景の中に心地よくいられるか、どれくらい自分のままでいるかの気持ちを作る方が大事なんだと思うようになりました。志ん生自身が、“孝蔵”を落語の噺として昇華させているんだから、架空と史実の間でどこかポップにしておいた方がいい、そんな感覚があります」
そもそも、森山が本作に出演するに至ったのは、本作のチーフ演出を務める井上剛と、同じく演出として参加している大根仁監督との縁がきっかけ。井上とは2009年放送のNHKスペシャルドラマ「未来は今 10 years old, 14 years after」と「その街のこども」で出会い、大根とは2011年にかけて放送、公開されたドラマ、映画「モテキ」でタッグを組んだ。「お2人との出会いは、僕の映像に携わる人生では、ものすごく大きいんです。だから、2人に飲み屋にいきなり呼び出されて、(大河ドラマに)井上さんがチーフで入り、大根さんがNHKで初めて演出をするという話を聞かされ、一緒にやらないかって言われたら、断る理由が見つからない。これは逃げられないって(笑)」
森山のテンポよくなめらかな語りも注目されているが、その語りには「モテキ」で培った経験が実を結んだようだ。「ナレーションは、本作に参加している大根仁監督と『モテキ』という作品をやったとき、ドラマ版でも映画版でもモノローグがむちゃくちゃ多かった。それで鍛えられたおかげだと思います」
31日放送の第13回では、師匠の橘家円喬から「三遊亭朝太」という名前をもらった孝蔵が落語家として初高座を迎えるが、一筋縄ではいかない性格から、ひと波乱が。森山は、「金栗四三さんがストックホルムで走るマラソンと、孝蔵の初高座がリンクするような映像で、四三と孝蔵が精神的に一つ、ぐっと近づく瞬間になっています。孝蔵や志ん生が(このドラマに)存在している意義を感じてもらえる、そんな回になっていればいいなと思います」と見どころをアピールした。(取材・文/岸田智)