是枝裕和監督、樹木希林さんとの撮影は「常に真剣勝負」追悼特集でトーク
映画『万引き家族』などの是枝裕和監督が2日、横浜・若葉町の映画館「シネマ・ジャック&ベティ」でスタートした、女優・樹木希林さんを追悼する特集上映「樹木希林 映画全集」内のトークショーに出席、ありし日の樹木さんとの思い出を語った。
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2018年9月15日に亡くなった樹木さんの実家は、横浜市の老舗居酒屋「叶家」(かのうや)。特集上映は、樹木さんが横浜ゆかりの女優であるということにちなみ、ヨコハマ映画祭の協力で行われるもので、企画に賛同した是枝監督は、日本アカデミー賞から一夜明けたこの日、樹木さんの出演した監督作『歩いても 歩いても』『海よりもまだ深く』の上映に合わせたトークショーに登壇した。
是枝監督と樹木さんのタッグは2007年の『歩いても 歩いても』から。是枝監督は、樹木さんの主演作『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』を観て、「こういう役も引き受けられるのか」と出演をオファー。脚本を読んだ樹木さんは、是枝監督に「わたしが断ったら次は誰に頼むつもり?」と伝えたという。
「当て書きで書いた役なんですけど」「でもわたしが断ったらどうするの?」といったやりとりの末、仕方なく、是枝監督が何人か別の候補をあげると、「その人たちならわたしの方がいいわね」と返答。「でも逆に、『この役は誰々さんの方がいい』と言うこともあったし。これは駆け引きということでなく、自分が監督に求められる以上のものが出せるのか……という気持ちで引き受ける、ということだったんですよね」と是枝監督は振り返る。
さらに、レースの端切れを持ってきて「レースを編む人にしたい」と提案されたり、玄関先に息子夫婦を迎えにいく場面でスリッパを持っていくアドリブをしたりといった樹木さんの行動を振り返り、映画が豊かになったと語る是枝監督。「そういうことがパッと出てくるんです。その辺がすごいんですよね。それを見逃すと、この監督はそういうことを見ない監督だということで、やらなくなるんです。だから、彼女がやることをテイクごとに探りながら、いかに拾っていくか、ということは、常に真剣勝負だったかもしれません」。
『歩いても 歩いても』は、いしだあゆみの「ブルーライトヨコハマ」の歌詞から、そして『海よりもまだ深く』はテレサ・テンの「別れの予感」という昭和歌謡曲の歌詞から、タイトルが引用されている。両作とも母役に樹木希林さん、息子役に阿部寛さんという組み合わせであったが、「実は第3弾は考えていた」と明かす是枝監督。「ちあきなおみさんの『喝采』を使って何かやりたいなと漠然と思っていたんですけど、難しくなっちゃいましたね」とポツリ。
そのうえで『歩いても 歩いても』は「希林さんと出会った、僕の中でも大切な作品」と切り出した是枝監督は、「三大映画祭で上映されて賞を獲るようなタイプの作品ではないですけど、一番好きだと言ってくださる方もいて。『ムーンライト』のバリー・ジェンキンズ監督にも、10年前に観たこの作品が一番好きだと言っていただいた。この映画が好きな人は信頼できると思います」と笑顔で付け加えた。(取材・文:壬生智裕)
樹木希林さんの特集上映「樹木希林 映画全集」は横浜「シネマ・ジャック&ベティ」で開催中