『ゲド戦記』原作者を題材にしたドキュメンタリー、監督が製作への思いを明かす
アメリカを代表する女性SF作家アーシュラ・K・ル=グウィンさんを題材にしたドキュメンタリー映画『ワールズ・オブ・アーシュラ・K・ル=グウィン(原題)/ Worlds of Ursula K. Le Guin』について、アーウェン・カリー監督が、3月1日(現地時間)、ニューヨークのバーナード・カレッジで行われたAthena Film Festivalの上映後Q&Aで語った。
本作は、まだ男性のSF作家が中心の時代に、女性のSF作家として頭角を現したアーシュラさんが、「闇の左手」、「所有せざる人々」、「ゲド戦記」などの代表作を、いかに執筆したかを捉えたドキュメンタリー。映画内では、彼女と家族との関係、フェミニストとしての活動などを、彼女の作品群をアニメ化したものと交錯させて描いている。
サンフランシスコでパンクロックの雑誌で働いていたとき、友人とアメリカの詩人アドリエンヌ・リッチのスピーチを聞いたことが、今作を製作するきっかけになったというカリー監督。「作家の言葉を作家と同じ部屋や会場で、生で聞くことの重要性について友人と語り合ったの。自分たちの人生に意味をもたらした作家の名前を挙げていったら、子供の頃に読んで、作品の内容に個人的なつながりを感じていたアーシュラの作品を思い出したわ」
当時、カリフォルニア大学バークレー校でジャーナリズムを専攻していた彼女は、同じ大学にあったドキュメンタリー映画のプログラムに参加。「そのときは、どのように映画を製作してよいのか全くわからなかったから、いつかアーシュラを扱った映画を手掛けることを念頭に置いて、勉強していたわ」そして、実際にアーシュラさんにアプローチをかけて製作が始まったそうだ。
撮影に10年を費やしたという今作、その構成については「今作はアーシュラ作品の全てを扱った総合的な映画ではなくて、わたしの個人的な観点から構成しているの。ただ、それを通して、彼女が残した作品が多くの人に感動を与えられたら良いと思っているわ。今作で描かれていない彼女の作品や、カットされたインタビューを通した精神的な観点は、重要ではなかったわけではなくて、ストーリーに一貫性を持たせるために編集的にそうしなければならなかっただけなのよ」と説明。長期間の編集を経て、納得のいく構成の作品に仕上がったようだ。
アーシュラさんの作品の中で好きな作品を聞かれると「(撮影を通して)長い間、彼女の作品に没頭していたから、好きな作品を選ぶのは難しいわ。でも、あえて挙げるのならば、今作では扱っていないけれど『天のろくろ』かしらね。彼女の作品の中でわたしが最初に読んだ小説なの。自分が見た夢が現実になってしまうという悩みを抱えた青年が精神科医を訪ねるも、その精神科医に彼の能力が利用されてしまうという話で、当時は(ファンタジーの世界を通して)現実を揺るがすような大きな衝撃を受けたわ。その他には、晩年に執筆された短編集の一つで、『Four Ways to Forgiveness』という作品も好きね。彼女の短編に関しては、今作ではそれほど描かれていないけれど、目を見張るようなものも多いのよ」と答えた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)