14年ぶり来日のクレール・ドニ監督、黒沢清と対談 衝撃の新作『ハイ・ライフ』特別上映で
『パリ、18区、夜。』(1994)、『ガーゴイル』(2001)などで知られるフランスの女性監督クレール・ドニが14年ぶりに来日。アンスティチュ・フランセ東京で開催中の「第一回映画/批評月間~フランス映画の現在をめぐって~」内で、新作『ハイ・ライフ』(4月19日公開)が12日に特別上映され、ドニ監督のファンを公言する黒沢清監督とともにトークショーを行った。
本作は、ドニ監督初となるSF映画。一隻の宇宙船を舞台に、美しき科学者・ディブス医師(ジュリエット・ビノシュ)のある実験に参加することで罪を免れた、死刑囚や終身刑を告げられた重犯罪人たちの危険な旅路が描かれる。
2005年に実施されたフランス映画特集「カイエ・デュ・シネマ週間」以来、約14年ぶりの来日となるドニ監督。かねてから彼女のファンだという黒沢監督は、作品を鑑賞すると「監督の最新作を観ることができて、こんなに幸せなことはありません」と満面の笑み。「すごい映画。言葉が出てこない。シンプルでわかりやすいようで、何一つわかっていないのかもしれない」と作品のテーマの深さに感銘を受けた様子。
さらに黒沢監督は、主演のロバート・パティンソン演じる宇宙船の乗組員モンテのまなざしが、ドニ監督が描く主人公の特徴の一つだと指摘。「『ネネットとボニ』(1996)や『ガーゴイル』の主人公も、モンテのような、絶望の先を見ているようなまなざしをしていた」と共通点を挙げ、そんな黒沢監督の意見にドニ監督も「間違ってはいないと思います」と笑顔を見せる。
ドニ監督は前作『レット・ザ・サンシャイン・イン』(2017・劇場未公開)、『ハイ・ライフ』と2作連続でジュリエット・ビノシュとタッグを組んでいることに「わたしは自分が好きではない俳優を撮影することはありません」とコメント。続けて「わたしが信じて、愛していることがわかるから、ビノシュもカメラの前で居心地が良いのではないでしょうか。だからこそ美しいのです」と被写体としての魅力を述べた。
また司会者から、黒沢監督の新作『旅のおわり世界のはじまり』(6月14日公開)と『ハイ・ライフ』には共通点があると触れられると、黒沢監督は「『ハイ・ライフ』は禁欲が一つのテーマになっていますが、僕も日本だけではなく海外から『あなたの描く主人公は、何が欲望かわからない』と言われ寂しい思いをすることがあるんです。だから欲望を抑えた人間が勝つというストーリーは嬉しいですね」と語っていた。(磯部正和)