イギリスの巨匠マイク・リー監督、待望の新作を語る
映画『秘密と嘘』『ヴェラ・ドレイク』などの秀作を手掛けてきたイギリスの巨匠マイク・リー監督が、待望の新作『ピータールー(原題)/ Peterloo』について、4月5日(現地時間)、ニューヨークのアンジェリカ・フィルム・センターで行われた上映後のQ&Aで語った。
【作品写真】構想10年を費やした渾身作『ターナー、光に愛を求めて 』
本作は、1819年にイギリスで実際に起きた民衆弾圧事件「ピータールーの虐殺」を描いた作品。ナポレオン戦争終結後、経済が困窮していた当時のマンチェスター。民衆は不満を訴え、選挙改正を求めるために著名な急進派の弁士ヘンリー・ハントを呼び、集会を開いていたところに騎兵隊が突入し武力鎮圧。これにより15人が死亡、700人以上もの負傷者を出す惨事を招いた。
学生時代に、この事件のあったマンチェスター付近に住んでいたことがあったというリー監督だが、その当時は知らなかったという。「この付近に住んでいる人でさえ、ピータールーの虐殺事件を知っている人はほとんどいなかったんだ。事件が起きたセント・ピーターズ・フィールドは、僕の住んでいた所からバスで15分くらいの場所にあったんだよ。今思えば、なぜ当時の学校の教師たちは、セント・ピーターズ・フィールドに生徒たちを連れていって、歴史の授業をしなかったのか不思議なくらいだね」その土地に育ったにもかかわらず、知らないということは矛盾していると思ったのが、製作のきっかけになったそうだ。
1980年代後半から映画界に関わってきたリー監督。その長いキャリアを通して、製作上やりやすくなったことはあるのかと聞かれると「逆に、やりやすくなっていないことならすぐに言えるよ。製作資金を集めることさ。もともと、映画製作自体が困難なものなんだ。絵画を描く人も、小説を書く人も、あるいは彫刻を彫る人も、みんな一人でできるけど、映画監督はそういうわけにはいかない。映画監督は、(多くの人と)共同で製作しなければいけないんだ。でも、これまで多くの作品を、同じようなチームと手掛けてきたことで、やりやすくなったことは確かだね。若い頃難しかったことでも、仲間を発見していくことで、それぞれ(仲間)の腕も熟練していったんだ」と答えた。
撮影監督ディック・ポープとのタッグについては「彼のことは天才だと思っているよ。映画『ライフ・イズ・スイート』からずっと共に仕事をしてきて、いろいろな意味で彼とは限界を押し上げてきたんだ。僕らは、若い頃から長年にわたって画家ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナーの映画を作るつもりでいたんだ。映画『ターナー、光に愛を求めて』に至るまでの過程で、さまざまなことを独自で学んできたよ。ただ、この映画以降、『今作はどんな画家の絵画に影響を受けているのか?』と聞かれるようになってね。ある人からは『今作はフェルメールの絵画をほうふつさせる』とも言われた。でも実際には、今作を描く上で一度もフェルメールの絵のことを考えたことはないんだ。ディック独特の光の使い方が素晴らしく、それが絵画をほうふつさせるのは理解できるけどね」と称賛した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)